このタイマーが鳴るまでに
- 昌俊 和田
- 4月5日
- 読了時間: 3分
更新日:4月9日
「このタイマーが鳴るまでに」
作・和田昌俊
登場人物
ワダ(37):坊主頭、黒ジャージ。無口で不器用な男。
アヤカ(38):ロングヘア、柔らかくも芯のある女性。
シーン1:公園・早朝
桜が咲いている公園。ワダがレジャーシートに座り、瓶からウィスキーを紙コップに注ぐ。ジャージ姿のワダは、少し肩をすぼめるようにして寒さをしのいでいる。
アヤカが、少しだけ距離をあけて隣に座る。ロングヘアが風に揺れる。ふたりの間に、静かな空気が流れる。
ワダが紙コップを差し出す。
アヤカ「朝からウィスキー?相変わらずジャージ姿でさ、変わんないね」
ワダ「寒くてさ。」
アヤカ、受け取ってひと口飲む。
シーン2:すれ違った時間
ワダ「去年、来た?」
アヤカ「来たよ。午後に。」
ワダ「じゃあ、すれ違ったんだな。」
アヤカ「……レジャーシート、なかった。」
ワダ、微かに笑う。
シーン3:記憶の味
アヤカ「味、変わった?」
ワダ「ウィスキーの?」
アヤカ「……ううん、生活の味。」
ワダ、答えず。代わりに紙コップの中を見つめる。
ワダ「……ちょっと塩っぱくなったな。」
アヤカが笑う。目が少し潤んでいる。
シーン4:子ども
ワダ「元気か?」
アヤカ「元気だよ。来月小学生になる」
ワダ「もうそんなにおっきくなったのか」
寂しそうにつぶやく
ワダ「会いたいなぁ」
アヤカ「会わせないよ」
ワダ「わかってるよ」
シーン5:別れ際の“贈り物”
アヤカがコップを置いて
アヤカ「来年も…ここに来るの?」
ワダ(少し考えて)「…来ると思う。」
アヤカ、バッグを探りながらしゃがみこむ。ピンクのウサギ型のデジタルタイマーを取り出す。少し汚れていて、ボタンの印字が薄い。
そっと、ワダの隣に置く。
アヤカ「壊れたと思ってたけど、 この前、ボタン押したら鳴った。」
ワダ(見つめながら)「まだ動くんだな。」
アヤカ「鳴るよ、たまに。…理由もなく押してた。」
風がまた吹く。アヤカのロングヘアが揺れる。
ラストカット:
アヤカがゆっくりと立ち上がって歩き出す。ワダは、タイマーをじっと見つめる。
ワダ「なあ、もう一度おれと」
アヤカ「まだ、まだ許したわけじゃないから」
和田のガッカリ顔
カメラは上がっていき桜の木を映す
散りかけた桜
ピッ、ピッ、ピッ…
ワダの手に握られたタイマーがアップになり音が鳴るその音だけが静かに響き、桜の花びらが舞う。
ワダは、何も言わず、ただタイマーの音に耳を澄ませる。
アヤカが遠くに消え、桜の花が風に舞う中、画面は次第に白くフェードアウト。
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