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オリジナル脚本『体温と同じもの』

  • 執筆者の写真: 昌俊 和田
    昌俊 和田
  • 7月12日
  • 読了時間: 18分

更新日:8月2日

『体温と同じもの』Tiny Hope

第三稿

作・和田昌俊


概要

産みづらさや育てづらさを抱える現代日本社会のママをテーマにしています

少子高齢化が進む社会情勢の中、すべてのママさんが安心して出産育児を迎えるこ

とができるような環境こそが大事であるというメッセージを伝えます

社会問題の提起

妊娠中から出産後 1 年以内に自殺した女性は 2 年間で 118 人います。妊娠中から

出産前後の時期に「交際問題」・「子育ての悩み」・「産後うつ」などの問題が深刻で命

を絶ってしまっています。自殺までいかなくても悩んでいる女性は多く、大変重大な社

会問題です

作品の特徴

「おなかの中の赤ちゃん」・「哺乳瓶のミルク」・「人のあたたかさ」これらを「ぬくもり」の

大切さと表現することで母子環境の改善と重要性を訴えます

ぬるいコーヒーを人肌のあたたかさ=ママさんにとっての哺乳瓶のミルクのメタファー

として使い、孤独感と忙しさに負けずにがんばる女性を応援する様子を描きます

蓋付き紙コップを大人の哺乳瓶として扱い、おしゃれな日常の象徴を育児の苦しみの

象徴として扱います

演出プラン

肌感覚で身近に問題を感じて欲しいのでシネマティックではなくドキュメンタリー調に

仕上げます。そのためセリフはできるだけ独白っぽく可能な範囲で長回しで撮ります。

後半の子どものことを話すシーン(つらいけどやっぱり可愛い)は見せ場となるため、

前半の愚痴パートからの後半の幸せパートの温度差を意識して演技して下さい

舞台設定

ぬくもりのわ という架空のママさん交流会のある日の様子を描き

ます。作品内 の時間経過的にはほんの 40 分~60 分くらいの想定

です。すべて屋内です。公民館の一室で行われています。設定上は劇団ぎょう座の

和田昌俊が東京都の委託を受けてボランティアで運営しています。椅子を円く配置し

てそれぞれが椅子に座り、手にはコーヒーのカップを持っています。イメージとしては

海外映画によくある断酒会などの自助グループの雰囲気です

登場人物 8 名メインキャスト■ 和田(37 歳)

劇団ぎょう座主宰。母子家庭で育った。東京都より委託されて「ぬくもりのわ」を主催し

ている。おもに司会進行役を務める。母親が育児で苦労しているのを見て育ち、母親

たちの居場所作りをしたいと考えている 。東京都の支援により、ぬくもりのわの時間

中は託児室を無償で借りられる

■ リリ(18 歳)

初参加。高校卒業と同時に妊娠が発覚。迷いと孤独を抱えている。産婦人科で「ぬく

もりのわ」を紹介されて訪れる

■ ユリ(25 歳)

育休中の夫がまったく役に立たないことにイライラしている。ちょっと毒舌な元ギャル

ママ。言いたいことは言う主義。夫はやる気はあるものの空回りしている

■ ミヨン(29 歳)

実家で育児中。夫とは離婚している。保育園に落ちて閉塞感を抱えている。両親と衝

突中。産後うつ

■ アヤネ(29 歳)

別居中の夫を持つワンオペ歴 3 年のキャリア系ママ。夫は育児に無関心。ワンオペで

限界

■ マユ(33 歳)

DV から逃れたシングルマザー。自己肯定感が低い。バイトをかけもちしている

■ ミカ(44 歳)

高齢出産。自分が他のママよりも高齢であることを気にしている。初の育児でいつも

緊張気味

■ マナカ(21 歳)

大学在学中に妊娠が判明し、中退して出産した。現在は落ち着いた生活を送り、穏や

かな笑顔が印象的。

※本作において身体的接触若干あります(女性→女性へ肩をたたく)セリフにセクシュ

アルな表現ありません(におわせ発言はあります。ごぶさた)。肌の露出はありません。

暴力的表現はありません。喫煙・飲酒シーンはありません【シーン 1 ぬくもりのわの会場 公民館の会議室 11:00 冒頭カットと常連ママ達】

黒板に書かれた「ぬくもりのわ」の文字

コーヒーの入った水筒が置かれている机

水筒には手書きで「デカフェ」と書かれたテープが貼られているものもある

ぬくもりのわの会場に集まった和田、ユリ、ミヨン、アヤネ、マユ、ミカ、マナカが輪に

なって椅子に座っている

手にはそれぞれ紙コップを持っている

すでに常連のママさんたちの愚痴り大会が始まっている部屋

ユリ「うちの旦那さ、育休中なのに一日中スマホ。昨日なんて、ミルクあげたって言い

ながら、一回しかあげてなかったの。自分は三食+おやつまで食べてるくせに」

マユ「うちの元旦那なんて、夜泣きの音聞いて、隣の家の子うるさいねって言ったから

ね。そのとき、もう別れようって思った。それなのにうちに抱きついてきて最近ご

ぶさただよなって迫ってくるの」

ミヨンが小さく笑いながら

ミヨン「わかる・・・うちの親も、最近の若いもんは弱いとか言って、育児中の私にもっと

頑張れって。離婚して保育園も落ちて誰にも頼れなくて弱ってるのに身内に追

い打ちかけられるって思わなかった・・・」

ミカ「私は 44 歳で初めての育児で・・・周りのママ達と話が合わなくて、友達に話すと、

あなたは妊活がうまくいってよかったよねって言われちゃって。なんかゴメンって」

アヤネ「子どもができるまでも大変かもだけど、できた後も続くんですよね大変なこと

って、アタシも妊活してたからわかるけど、それまでは仲間意識があったのに、

子どもができた途端に裏切り者あつかいです笑」

マナカ「アタシは妊活ってしたことないからわかんないなあ。婚活もしたことないけど笑

あっねえねえ、和田さん、今日のコーヒーって豆の種類変えました?」

和田「あ、わかります?」

マナカ「うん、なんかいつもとちょっと違うかも」

ユリ「そうだよね、ちょっとコクがあって香ばしいかも」

和田は黙って嬉しそうに微笑む

そのとき、ドアが開く

【シーン 2 リリが登場して和田が妊娠に気づく】

リリが扉を開けておずおずと入ってくる。

リリ「すみません、あの、ここってぬくもりのわで合ってますか?」

和田は立ち上がる和田「はい。初めてですよね?どうぞ、こちらへ」

和田はリリの方へ歩いて行く

リリは周囲を見渡しながら少し緊張している

和田「よかったら、コーヒーどうぞ。今日はグアテマラを深煎りで淹れてきてるんです」

和田が空の紙コップを取って差し出す

リリは手を伸ばしかけて一瞬手が止まる

和田はその様子を見て何かに気づく

和田「・・・デカフェもありますよ」

リリはほっとしたように

リリ「あっ、ありがとうございます」

【シーン 3 ママたちの自己紹介】

全員が着席している

和田「じゃあ、初めての方もいらっしゃるので、改めて自己紹介しますね。この会は東

京都から委託されて開催しているぬくもりのわです。ぼくはこの会を主催している

和田です。それではみなさんもひとことずつ自己紹介お願いします」

ユリはリリを見て明るく声をかける

ユリ「ユリです。25 歳。第一子、1 歳。えーと、悩みはね、旦那がまったく使えないこと。

ミルク冷ますのに 5 分もかけてぬるくしすぎて子どもに泣かれるの、マジで才能

だと思う。このコーヒーもさ、ぬるいけど、ミルクと同じ温度で、ちょうど良いって感

じがするよね。あ、意味わかんなかったらごめん笑」

マユは口をはさむように話し出す

マユ「それ、わかる!ぬるいって、ママになってから許せる温度だよね。あっ、私はマ

ユ、シングルマザー。33 歳。バイト掛け持ち。食費のために朝食抜き生活7ヶ

月目突入~笑、でもうちの子がママ、おいしいねって言うとさ、泣ける。あれだ

けで救われるんだよね」

ミヨンが微笑んで言う

ミヨン「ミヨンです、29 歳。夫とは離婚して今、実家に子どもと一緒にいます。保育園に

入れなくて、ずっと待機。実家で両親に育児手伝ってもらおうと思ったんだけど、

うちの両親共働きだから、実家にいても気を遣ってばかり。育児に向いてない

んじゃないかなって思う日もあるけど、ここにくれば託児室に預けて少し息抜き

できるからなんとかやっていけてる・・・気がする、たぶん笑」

アヤネ「ここの託児室楽しいらしくて私の娘いつも大喜びだよ。あっ私はアヤネ、29 歳。

夫は海外赴任中。3 歳の娘と二人暮らし。ワンオペでシングルマザーみたいな

もんだから寂しいって言うのが最近の口癖になっちゃってる笑。でも寂しいなんて、なんか我慢が足りないって思われる気がして・・・でもほんとは誰かによ

くやってるねって言われたい日もある」

口々に「よくやってるよ」と言うママたちに対して「ありがとう」と笑うアヤネ

ミカ「ミカです。44 歳。初産で産みました。最近、子どもを病院に連れて行ったとき、待

合室でおばあちゃんですか?って聞かれて・・・恥ずかしかったけど、それ以上に

この子のために笑っていようって決めたんです。泣かれるたびにこの子は私を求

めてるって思って踏ん張ってます」

マナカ「それめっちゃ失礼な奴ですよね、アタシだったら SNS にそいつの顔晒して袋だ

たきにしちゃうな。アタシはマナカ。21 歳。息子は今 4 歳になったばっか。大学

入ってすぐに妊娠が判明して、中退して産んでカレシには逃げられてしばらく

は病んでた。高卒の子持ちって就職不利だったからめっちゃ病んでたけど今

は普通に事務職できてるしめっちゃ幸せだよ」

ミヨン「マナカちゃんのカレシさんイケメンだもんね」

マユ「あのインスタ見てずるーいって思った笑」

マナカ「もう別れようかなって思ってるけどね笑」

アヤネ「あれ?先月付き合ったばっかじゃん?」

マナカ「もう飽きちゃって、だって顔しか取り柄無いんだもん」

ユリ「うちの旦那も顔しか取り柄ないからなあ、別れよっかな」

ミカ「私はもうそんな気力ないな。毎日今日を無事にやり過ごすことしか考えられない」

わかるわかるという感じでうなずくママ達

【シーン 4 リリの不安と先輩ママの言葉】

一通りママさん達の自己紹介が終わって静まりかえる部屋

みんながリリに注目する

プレッシャーをかけないように気を遣いながら和田が優しく声をかける

和田「では・・・お名前だけでも大丈夫ですよ」

リリ「リリです。産もうかどうしようか迷ってて。産婦人科でこういう場所があるよって言

われて・・・カレは逃げちゃって、ほんとは産みたいけど・・・やっぱり甘いですか

ね?怖いんです。ちゃんと育てられるか・・・自分の人生なくなるんじゃないかって」

優しくユリが言う

ユリ「なくなるよ、自分の人生なんて。でもね、ママになった自分って想像以上にタフで

愛しくなるからさ」

ミヨン「泣きながら作った離乳食をひっくり返されても、また明日頑張ろうって思えた。

意味わかんないよね。可愛いって怖いよね」

ミカ「私は 43 歳で初めての出産だったから不安の塊でした。でも、親になるのって歳じゃなくて気持ちなんだって気づいた」

アヤネ「私もまだ、迷う日ばっかり。でもね、わかるって言ってくれる人がいるだけで、

なんとか歩ける気がするんだよね」

マナカ「アタシは大学入ってすぐだったから。中退したけど。あのときは死ぬほど悩ん

だけど、でもいまはすごく幸せに生きてるよ。命ができた時点で、もう選択肢じ

ゃなくて決断だから」

マユ「ねぇ、いまって、何週目?」

リリ「10 週目です・・・」

マユ「一番不安な時期だよね」

マナカ「私なんか 10 週目のときにカレシと別れたし。今じゃ笑い話だけど」

ミヨン「笑えてるのはちゃんと向き合ったからでしょ」

リリ「・・・私、産んでもいいのかなってずっと悩んでて」

ユリ「いいのかな、じゃなくて産みたいかどうかで決めていいと思うよ」

アヤネ「なんでも相談してよ。私たち、家族じゃないけど戦友だから」

リリはこくりとうなずく

マユ「ママっていうのはさ、正解はなくって、ただ続けることなんだと思うんだよね」

ミカ「私も産むの怖くて。ちゃんとママになれるかなって思ってばかりで。でもここ来て

みてわかったの。ちゃんとなんて誰もできてない。だから、わたしなりでいいんだ

って」

ミヨン「私はね、この子のためにってずっと頑張ってたけど、途中で気づいたの。この

子のためにもちゃんと笑わなきゃって。ママが笑ってたら子どもはきっと安心す

るから」

ユリ「お母さんになったら、もう完璧じゃなくていいんだよ。自分らしく生きること、それ

がいちばん子どもに伝えたい言葉」

マナカ「アタシも同じように悩んでた。正直もっと遊びたいって気持ちもあったし、子ど

もができたら楽しいことができなくなっちゃうって思ってた。でもね、子どもがで

きたら毎日嫌ってほど遊びの毎日だよ。それにね、シングルマザーってけっこ

うモテる。だからその気になれば男なんていくらでもできるから大丈夫」

笑い声にあふれる室内

【シーン 5 ママ達の本音、本作品のハイライト】

ユリは少し笑いながら自分のカップを見つめて言う

ユリ「うちの子さ、夜泣きひどいし、哺乳瓶拒否するし、おむつも 1 日 8 回換えるレベ

ルでマジで振り回されてるのに・・・ちょっと熱出して寝込んでるだけで、心配すぎ

て涙でるのよ。あんなに大変な日々なのに、その大変さがなくなるって考えただけでゾッとするんよ。なんだよ~うるさいな~って言いながら、泣き顔が見えない

と不安になる。ほんと矛盾してるけど・・・あの子が笑ってくれるだけで全部チャラ。

もう、意味わかんないくらい、愛おしい」

ユリの言葉に、小さく笑いながら涙を拭くママたち

アヤネがまっすぐリリを見ながら言う

アヤネ「私、育児が不安でたまらなかった頃、子どもに、あなたがいなければ私楽だっ

たかもって思ったこと・・・ある。自己嫌悪で潰れそうになったけど、ある日、マ

マがんばってるねって 3 歳の子が言ってきたの。・・・泣いた。あんな小さい子

が私の気持ち、ちゃんと感じてくれてたんだって。そしたら今までの毎晩の泣き

声も、食べこぼしも、全部が宝物みたいに思えたの。人に、わかるよって言っ

てもらえることが、どれだけ救いになるか、私はこの会で知った。リリちゃんに

も、そんな場所がきっとできるよ」

ミヨンが涙ぐみながら言う

ミヨン「・・・私ね、出産してから毎朝、今日も起きなきゃって、ため息しか出なかったの。

夜は眠れないし、誰も代わってくれないし、子どもを見てるのが怖い日もあった。

でも、あの子が指で私の髪をつかんでニコッて笑ったとき・・・あ、私この子の

世界なんだなって思った。私がいなかったら、この子は存在できない。・・・すご

く怖かったけど、それ以上に誇らしかった。子どもって、ママを生きてていいっ

て思わせてくれる存在なんだよね」

リリ、唇を噛みしめながら涙をこらえる

ミカは落ち着いて話し出す

ミカ「私は高齢出産だったから、出産の時に赤ちゃんか私、どちらかが危ないかもって

言われた。怖くて怖くて、でもね、産声を聞いた瞬間、全部が報われたの。・・・こ

の子に会うために生きてきたんだって、はっきり思った。毎日、ママ見て!って言

ってくるあの子の姿が、奇跡みたいに愛おしい。リリちゃん、怖いなら、ちゃんと

怖がっていい。でも、産むって選んだその先には、想像もできないくらいの愛があ

る。それだけは、間違いなく、私が保証するからね」

みんな、リリに向けて小さくうなずく

マユは声を震わせて言う

マユ「うちの子、元旦那がいなくなってから、パパは?ってよくきくの。正直答えに困る

けど、それでも私が笑ってると、子どもも笑うの。・・・その笑顔のためなら、何でも

できる。ほんとに。だから、私、自分のこと褒めてるよ。私、よくやってるって。そし

たら、なんか、子どもにも優しくできるようになった。リリちゃん、大丈夫。ちゃんと

愛せる自分になれる。ゆっくりでいい。ここに来たことが、もう一歩目なんだから」

マナカが昔の自分を思い出したように言う

マナカ「どうしようかなって悩んでるってことはさ、たぶんもうママになってるんだよ。子どものことを考えてるから悩むわけでさ。今まで自分がママになるなんて想像

もできなかったし・・・カレも逃げちゃってたった一人で心細くて・・・お金とか生

活とか将来とかいろいろ不安だらけだったけど・・・でもうちの子がさ、将来ママ

と結婚するって言ってくれて・・・なんかそれだけでもう、十分って思ったんだよ

ね。いろんな男と付き合ったけど、息子を一番愛してる。だから絶対あの子を

マザコンにするんだ笑」

リリは涙をこぼしながら

リリ「・・・私、本当は産みたいって思ってたんです。でも、産むって決めたら、全部を背

負わなきゃいけない気がして・・・怖くてたまらなかった。どうせ誰にも理解されな

いって、諦めてたのに・・・今日ここに来て、みなさんの言葉を聞いて・・・なんか、

あったかくて・・・寂しさが溶ける感じがして・・・。ちゃんと、育てたいって、思いま

した。・・・ありがとうございます」

ママたちは拍手はせず、ただ静かに、でも深くうなずいている

和田が微笑む

和田「リリさん、また来て下さいね」

うなずくリリ

リリ「はい。子どもって、いろいろ大変だけどあったかい存在なんですね」

ミカ「ぬるいミルクと一緒。アツアツじゃなくていい。ぬるいから心をじんわり包めるの」

少しだけ優しい笑みがあふれるママたち

マユ「そういえば和田さんのお母様もシングルマザーですよね?」

ミヨン「えっ、そうなの?知らなかった」

マユ「前に話してくれたじゃないですか」

和田は遠くを見て少し微笑む

【シーン 6 和田のママとぬくもりのわの関係】

和田「母は毎朝コーヒーを淹れてました。でも、飲み終わった姿って見たことなくって」

みんなが和田を見つめる

和田「あの人は母子家庭で、たった一人でぼくを育ててくれて。自分のことはいつもあ

と回しって感じだったんです。この紙コップにそんな母の姿が重なるんですよね。

飲みかけのまま置いていかれたやつ」

ユリ「だからいつもコーヒーを用意してくれてるんですね」

アヤネ「これ、ちびちび飲んでると哺乳瓶みたいでなんか安心する」

和田は少し笑う

和田「体温と同じくらいの温度でだれかに寄り添えるように。そういう意味を込めてぬくもりのわって名前にしたんです。母はいつも一人で抱え込んでたから。当時、こ

んなふうに少しでもだれかと話せる場所があったら、母はもっと子育てに前向き

になれたんじゃないかなって思ったんです」

【シーン 7 ぬくもりのわの終わりの時間】

和田の告白をきいて共感して静まりかえる部屋

和田「あっ、もう託児室のお迎えの時間ですね。また来週お待ちしてます」

和田が立ち上がって見送ろうとする

ユリ、ミヨン、アヤネ、マユ、ミカ、マナカがそれぞれのタイミングで立ち上がって部屋

を出て行こうとする

口々に「またね」「今日あっという間だったな」「いつもでしょ」「また戦場に戻りますか」

「ママ遅い~って怒る顔がちょっと楽しみ」「今日もコーヒーごちそうさま」など挨拶を交

わし、紙コップを出入り口付近の机の上に置いて去って行く

リリは立ち上がってなにかを和田に言おうとしている様子

ユリ、ミヨン、アヤネ、マユ、ミカ、マナカが帰り際にリリに一言ずつ声をかけていく

「大丈夫だよ」「また会おうね」「身体冷やさないでね」「(肩をトンと叩いて)一人じゃな

いからね」など

和田の方を見るリリ

【シーン 8 リリの決断】

和田が後片付けをしている

リリが和田に近づく

リリ「和田さん」

和田「はい」

真剣な表情のリリは覚悟を決めたように告げる

リリ「今日はありがとうございます。私、産もうと思います」

和田は黙って優しくうなずく

リリ「この子に会いたいんです。人生ぶっ壊してくる存在だけど、それでも愛しいって思

うんです」

和田はなにも言わずに優しく微笑む

リリ「和田さんのお母さん、きっと和田さんのことをすごく誇らしいと思ってるはずです

よ」

和田「え?」

リリ「和田さんはたくさんのママにぬくもりを与える、特別な場所を作ったから。私もそんな子を育てたいって思ったんです」

和田は一瞬言葉が出てこない。照れるのを隠すように少し笑う

和田「特別じゃなくなるといいですよね。こういう場所が特別じゃなくて普通にできると

いいなって思います」

深くうなずくリリは明るい顔になる

リリ「また来ます」

和田「いつでもどうぞ。おいしいデカフェ用意しておきます」

リリ「人肌にしておいてください」

和田「ミルクと同じ温度ですね」

リリ「そうです。体温と同じくらい」

そう言ってリリは自分のお腹に手を置いて笑う

リリが手を置いたお腹のアップ(鑑賞者に赤ちゃんの姿を想像してもらうカット)

『体温と同じもの』タイトルイン

♦エンディング開始(ワンカット長回し)♦

紙コップのアップに文字が浮かぶ

【産後うつの発症率:14.3%】

【育児が「しづらい」と感じた母親:74.2%】

そのまま紙コップを和田が手に取って画面からフェードアウトする

カット切り替え

エンディングクレジット開始

誰もいないぬくもりのわの会場

和田が登場して手に持っている紙コップをユリに渡す

1 人ずつ順番に紙コップをバトンのように慎重に手渡していく

ユリ→ミヨン→アヤネ→マユ→ミカ→マナカと渡されていく

[ぬくもりを全員が受け取っていく象徴的シーン]

最後はリリに渡される

みんなが紙コップを持って集まって笑顔になる。全員がカメラ目線になる

全員「せーのっ、乾杯」

[みんなが笑顔でぬくもりを手にする=みんなの気持ちが一つになる象徴的シーン]

END『体温と同じもの』という作品について

少子高齢化が進んでいます。現代日本社会ではますます、子どもを産んで育てるの

が難しい社会になっています。それでも、だれかと「わかる」を分け合えたなら。この世

界はきっと、体温と同じものになると思います

どうか、この作品を通して「だれかのぬくもり」を感じてもらえますように

和田昌俊

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