空気より重いもの
- 昌俊 和田
- 2 日前
- 読了時間: 37分
更新日:18 時間前
『空気より重いもの』
第四稿
作・和田昌俊
概要
演劇・芸能業界における「セクハラ」・「パワハラ」・「同調圧力」をテーマにしています
風船を空気のメタファーとして使い、セクハラ・パワハラに対する葛藤や心の重みを象徴的に描きます
稽古場で日常的に起こる無意識な「セクハラ」・「パワハラ」という社会問題と
「言えない空気」 「受け止める側の葛藤」 「加害のつもりがない加害者」
「忖度」 「沈黙による被害の拡大」 「心の解放」
という構図を通じてジェンダーではなく構造(意識)の問題として描きます
登場人物8名メインキャスト
■ 和田(30代・繊細でまじめ、感情を内に抱えるタイプ)
背景: 長年、真面目に芝居と向き合ってきたが、空気を壊さないよう常に“自分を押し殺してきた”。セクハラに対しても「自分が敏感すぎるのか」と思い込んでいたが、限界に達し初めて声を上げる。
キャラの軸:「静かな抵抗者」
決め台詞(カメラ目線):
「空気を壊すのって、勇気がいる。でも、それが未来を変えるって、僕は信じたい。変わらない空気なんて、ないんだから」
■ 木立(30代・演出家、自信家、過去の“成功”に縛られている)
背景:「自分は現場を回している」という自負があり、若手への演出や指導に対して「昔はもっと厳しかった」と語るタイプ。セクハラ・パワハラの境界が曖昧で、「愛ある指導」のつもりで通してきた。
キャラの軸:「過去にとらわれた無自覚な加害者」
決め台詞(カメラ目線):
「自分もやられてきたからって、他の人にもやっていいわけないもんな」
■ 大倉(30代・木立の後輩/忠誠心と葛藤のあいだで揺れる)
背景: 木立のやり方に憧れながらも、内心では「これは本当に正しいのか」と疑いを抱いている。和田への言動を目の当たりにし、後悔を覚える。
キャラの軸:「共犯者になってしまった“傍観者”」
決め台詞(カメラ目線):
「俺、自分が“無害”だって信じてた。……それが一番こわいよな」
■ 新谷(30代・冷静で理知的/以前は沈黙してきた側)
背景: 以前、被害者をかばおうとして現場から外された経験がある。それ以来、「空気を読むこと」に特化した存在になったが、内心では自分を許していない。
キャラの軸:「知ってて黙っていた知性」
決め台詞(カメラ目線):
「空気、変えましょう。私たちが“読む”んじゃなくて、“つくる”側になって」
■ 愛乃(30代・場を和ませる潤滑油、しかし自己否定感あり)
背景: 笑顔を絶やさず空気を読んできたが、かつての職場で笑顔のままハラスメントにあっていたことを隠している。今も“笑う”ことで場を守ろうとしてしまう。
キャラの軸:「笑顔の仮面をかぶる自己否定者」
決め台詞(カメラ目線):
「ごめん…私も、見てたのに、何も言えなかった。沈黙は安全だけど、正義じゃない」
■ 手塚(30代・耐えることでしか生き残れなかった元現場主義者)
背景: 若い頃から「現場の空気を守れ」「女優は黙ってろ」と教えられてきた。“反論しない”ことで生き残ってきた。だが、後輩たちの声に触れ、今初めて過去を悔やみ始める。
キャラの軸:「沈黙の遺産を抱えた語り手」
決め台詞(カメラ目線):
「黙るって、同意してるって思われるんだよ。空気を壊すのって、怖い。でも……壊さなきゃ、なにも変わらない」
■ 希来(20代後半・若さと真っ直ぐさで空気を突き刺す存在)
背景: 若手女優。過去に小さな違和感を何度も飲み込んできたが、“正しさ”を信じたいと思っている。言葉にすることを恐れながら、言葉を信じたいタイプ。
キャラの軸:「痛みに気づきながら声をあげる世代」
決め台詞(カメラ目線):
「声を出したら、全部壊れると思ってた。……でも、黙ってたら、自分が壊れるんです」
■ 西広(20代前半・若さと真摯さ、変化を望む次世代)
背景: ハラスメントを当然とする旧世代を見て育ったが、それに違和感を持つ若者。純粋に演技がしたくてこの業界に入り、初めて「声を上げる」という勇気に触れる。
キャラの軸:「変わろうとする最初の世代」
決め台詞(カメラ目線):
「間違った方法で役をもらっても、僕は心を込められない」
※本作において身体的接触あります(肩や腰やお尻などを掴む・叩く・触るなど)セリフにセクシュアルな表現が若干あります。肌の露出はありません。暴力的表現あります(恫喝)。喫煙・飲酒シーンはありません
【シーン1劇団の稽古場 公民館の会議室11:00】
劇団の稽古場に集まった和田、木立、新谷、愛乃、希来、手塚、大倉、西広の全員
立ち稽古中の和田を指導している木立
和田の手には膨らませていない風船が握られている
机の上の風船が映る
和田「ぼくと一緒に希望を膨らませようよ」
木立「うーん、ダメだなあ。もう一回」
『空気より重いもの』の台本が映る
和田「ぼくと一緒に希望を膨らませようよ」
木立「ダメダメ、全然なってない」
呆れたように見つめている西広・手塚・新谷ワイドカット&CU
和田「ぼくと一緒に希望を膨らませようよ」
呆れたように見つめている希来・愛乃・大倉のワイドカット&CU
木立「ああもう、さっきから全然ダメだって」
セリフを言った姿勢のまま止まっている和田のそばに歩み寄る木立[和田と木立の2人が映る]
木立「おい、和田ぁその台詞、もっと艶っぽく言ってくれよ」
和田のお尻をつかみながら指導する木立
木立「ほら、もっと腰の動き強調して。お尻の穴にギュッと力入れんだよ」
和田「……はい」
少し嫌がりながらも言われたとおりにする和田
和田「ぼくと一緒に希望を膨らませようよ」
木立「うーん、なんか声にエロさが足りないなあ」
和田の乳首を突きながら
木立「和田のやる気スイッチはどこかなあ?」
和田「ちょっ・・・」
木立「ここかな?ここかな?それともここかな?」
和田「いや、ちょっとやめてください」
嫌がりながらも笑って穏便にすませようとする和田
木立「カワイイなあその反応。ようやく艶が出てきたじゃん」
肩をつかんでニヤつく木立
和田「・・・ありがとうございます」
和田が逃げないと知った木立はまた乳首をつつく新谷「木立さん」[カメラ振り向いて新谷向け肩上ショット]
新谷「それ“演出”ですか? それとも、ノリですか?」(止めるように)木立「え、演出だよ、もちろん。…空気悪くなるなぁ〜」(少しムカつきながら)
愛乃「“空気”…ね。……さっきからちょっと、近いですよ笑」
木立が和田の肩を軽く叩きながら笑う
木立「演技ってのはさ、距離の美学だよ。リアルに近づかないと伝わらないから」
木立が調子に乗って和田の首筋に息を吹きかける
和田「・・・はい」
嫌がりながらも拒絶しない和田
大倉「主役はいいなあ。ぼくも直接木立さんに演技つけてほしいです」(媚びるように)
木立「おまえには10年早いっての」
希来「あの、このシーンってエロさとか艶とか必要ないですよね?」(冗談っぽく)
木立「演出ってのは、現場で作るもんでしょ。空気、壊さないで?」(指さしながら)
希来、曖昧に笑って沈黙
木立「おい、和田が演技ダメダメだからなんか空気悪くなったぞ。どう責任とんだ?」
木立が和田のお尻を叩く
ビクッとする和田
和田「・・・はい、ごめんなさい」
新谷「…今の完全アウトじゃない?」
希来「今のはさすがにちょっと…」
抗議しようとする新谷を引き留める手塚
手塚「なにも言わない方がいいよ。こんなのよくあることだし」
新谷「・・・見て見ぬふりって、楽だもんね」
愛乃「めんどうな奴って思われたら仕事なくなっちゃうよ、それでもいいの?」
大倉「木立さん、この業界に顔が広いですもんね」
不安そうに話を聞いている西広
木立「おい、西広」
西広「はい」(突然呼ばれて驚く)
木立「よく見とけよ、おまえにもあとで演技ちゃーんとつけてやるからな」
西広「・・・はい、よろしくお願いします」
木立(笑って)「これくらい普通だよな? なあ大倉?」
大倉(曖昧に笑って)「……まあ、普通によくあること…ですよね、こういうの」
木立「なんか勘違いしてるみたいだけど、おれに演技つけてもらえるなんて光栄なことなんだぞ」
大倉たちに言い放った後に和田の方を向く木立
和田の顎をくいっとつかむ木立
木立「見込みのある奴にしかおれは本気で演技つけないんだから」
和田「・・・ありがとうございます」
和田は目を逸らして笑ってごまかす
気まずい空気に包まれる稽古場
木立「いや、そんなマジでとらないで〜、空気悪くなるよ?」(冗談ぽくおちゃらけて)
大倉「じゃ、じゃあ今日も空気あっためていきましょう〜」(無理矢理明るく)
木立「おれ、コーヒー飲んでくるわ。さっきのエロい感じ忘れんなよ」
和田「はい」
希来「でも、やっぱり……変ですよ」(小声で)
インサートカット(和田の手の中で握りしめられた風船)
【シーン2劇団の稽古場 公民館の会議室11:40】
休憩中の稽古場
和田のそばにくる新谷
新谷「ねぇ、無理して笑わなくていいよ。あれ…つらいでしょ」
和田は風船を手で揉むようにしている和田「ぼくは、ただ・・・空気を壊したくないだけなんです」
新谷「それ、“触られていい人”っていう空気を勝手に作ってません?」
和田、言葉につまる
和田が風船を膨らませて静かに空気を吐く。風船を見つめる和田
インサートカット(和田の手に持った空気の入った風船)
【シーン3劇団の稽古場 公民館の会議室11:45】
雑談をしている西広・愛乃・希来・手塚・大倉
西広「木立さんの行動って稽古進むごとにどんどんエスカレートしてません?」
大倉「さすがに今日のはちょっと空気悪かったね」
愛乃「空気なんていつも悪いわよ。あの人の現場は特に」
希来「でも、やっぱり……変ですよ。手塚さんもそう思いません?」
手塚、そっと和田を見つめる。
手塚「私もそう思うけどさ。でも、自分も昔は“触られたうちに入らない”って言われた世代で…ずっと黙ってきた」
愛乃「私も“女優なら愛されて当然”って言われたことある」
手塚「“ちゃんと断らないと伝わらない”って、なんで被害者が責められるんだろう」
希来「でも、空気読めって、ほとんど“黙ってろ”って意味で使われてますよね」
愛乃「“空気悪くなる”って言われるの、たいてい何かを言おうとした人だよね…」
手塚(苦笑)「“空気”読んじゃうんだよね、私たち、ずっと」
西広「この業界入ったとき、“空気を壊すな”って、よく言われてきました」
手塚「空気よりも自分のキャリアを大事にしたほうがいいんだよ。ほんとに」
希来(ぼそっと)「でもあれ、普通じゃないですよね。言った方がいいんじゃ・・・」
愛乃「わたしも昔、似たようなことあった。でも、演出だからって言われちゃって」
手塚「“演出”って便利な言葉だよね。“やれ”って言われなくても、空気で従っちゃう」
愛乃「“気まずくなる”のって、言った方じゃなくて…やられた方なんだよね、だいたい」
インサートカット(風船が机の上に転がる。大きく膨らんでいる)
【シーン4劇団の稽古場 公民館の会議室12:45】
休憩が終わり、稽古が再開された稽古場
立ち稽古中の和田を指導している木立
木立「和田ぁ、もっとエロい存在感だせよ、そんなんじゃ目立たねえよ、おまえはただの空気かよ」
和田につかつかと歩みよる木立が和田の肩をどつく
(インサートカット 膨らむ風船)
【シーン5劇団の稽古場 公民館の会議室12:50】
しばらく沈黙する和田が絞り出すように言う
和田「・・・ぼくは空気なんですか?」
木立「なんだよ、ただの冗談だろ。マジになんなよ」
和田「“冗談”って言われると、なかったことにされる。……なかったことにされたら、ぼくがそこにいなかったみたいになるんです」 (間)和田「僕だって、息をしてます。ここにいます」
目を合わせずに下を向いたまま絞り出すように言う和田
木立「いい。いいよ和田、その感じ。やっと本気の和田が出てきたじゃん。俺、素直に好きだわそういうの」
木立が近づき和田の肩に手を置こうとするのを振り払う和田
和田「それ、演出ですか? それとも……ただの“癖”ですか?」
木立「どうしたんだよ、和田。おまえおかしいぞ」
和田(勇気を出して)「最近…触られるの、ちょっとつらくて」木立(鼻で笑って)「は?役者だろ?その程度のことでヘコんでどうすんの」 (間)木立「やる気ないなら、西広に代えるぞ?」
西広(びくっとする)「……」
木立「笑って流せよ、それくらい」
-〈クローズアップカット:和田が膨らんだ風船を手に、強く握りしめる。まだ割らない〉
【シーン6劇団の稽古場 公民館の会議室12:55】
木立「和田がやる気ないなら、西広、おまえに主役交代させるから」
希来「……もう、見て見ぬフリはできません」視線を西広に送る希来
西広は沈黙 → 一歩前に出る。決意を込めて
西広「嫌です」
木立「は?」
西広「……ぼく、最初は……主役、もらいたいって思ってました。でも……いまは和田さんの役をもらいたいなんて思いません」
(カメラ目線)(決めショット)(切り替えカット)
西広「間違った方法で役をもらっても、僕は心を込められない」
【シーン7劇団の稽古場 公民館の会議室13:00】
木立「おいおい、べつに和田は嫌がってないじゃん。笑ってたじゃん。みんなも見てただろ?なにムキになってんだよ」
和田「笑ってたのは、笑うしかなかったからです!」
決意を込めて言う和田
和田「ボディタッチとか嫌だったけど、全部演出のためだと思ってました。でも…笑って流してたら、何も起きてないことになるんですか?」
-〈クローズアップカット:和田が風船を強く握る → パンッ! と破裂
【シーン8劇団の稽古場 公民館の会議室13:05】
木立「なに言ってんだよ。いやいや、演出だから。な、大倉? これ、普通だよな?」
大倉「……普通かどうかじゃなくて……その、本人が嫌がってるなら…」
木立「は? なにそれ?」
大倉「俺……木立さんの作る芝居、大好きでしたよ。でも、それと、黙って一緒に笑ってたのは…違ったんだって、今思います」
一歩前に出る大倉は和田を見る
大倉「俺、木立さんみたいになろうって、ずっと背中を追いかけてたんです。でもそれが、誰かを傷つけてたなら…俺も加害者です」
西広「僕、この業界で、“空気を読める奴”になれってずっと言われてきました。でも今日、“読まない強さ”を初めて見た気がします」
そう言って和田の方を見つめる西広
手塚「和田さん、ごめんね」
和田のほうに歩み寄る手塚
手塚「あのとき、何度も言おうとした。でも、“今言うと現場が止まる”って声が、頭の中で響いてた。…気づけば私、“黙るのが上手”になってた」
(カメラ目線)(決めショット)(切り替えカット)
手塚「黙るって、同意してるって思われるんだよ。空気を壊すのって、怖い。でも……壊さなきゃ、なにも変わらない」
【シーン9劇団の稽古場 公民館の会議室13:10】
愛乃「ごめん…私も、見てたのに、何も言えなかった」
和田のほうに歩み寄る愛乃
愛乃「“普通”って言葉、便利だなって思います。“みんなそうだから”って一言で、誰かの痛みを隠せる。でもその“みんな”に、私はなりたくない」
(カメラ目線)(決めショット)(切り替えカット)
愛乃「沈黙は安全だけど、正義じゃない」
【シーン10劇団の稽古場 公民館の会議室13:15】
和田のほうに歩み寄る希来
希来「私……前の現場で、同じようなことがあって。向こうが悪いのに、なぜか私が謝らされて・・・“見て見ぬふり”って、加害者になるのと何が違うんですかね?」
(カメラ目線)(決めショット)(切り替えカット)
希来「声を出したら、全部壊れると思ってた。……でも、黙ってたら、自分が壊れるんです」
【シーン11劇団の稽古場 公民館の会議室13:20】
大倉「“これくらい普通”って、俺が言ったから、木立さんも大丈夫だと思ったんですよね。でも、あれは“普通”じゃなかった。…今さら気づくなんて情けないけど、もう黙ってたくないです」
(カメラ目線)(決めショット)(切り替えカット)
大倉「俺、自分が“無害”だって信じてた。……それが一番こわい」
【シーン12劇団の稽古場 公民館の会議室13:25】
和田のほうに歩みよる新谷
新谷(深く頷きながら)「“空気を読め”って、便利な言葉ですよね。でももう、“空気を変えよう”って言ってもいいんじゃないですか」
(カメラ目線)(決めショット)(切り替えカット)
新谷「空気、変えましょう。私たちが“読む”んじゃなくて、“つくる”側になって」
【シーン13劇団の稽古場 公民館の会議室13:25】
木立「いや、おれそんなつもりじゃなかったんだって」
手塚「その“つもり”が一番怖い。壊れてるの、空気じゃなくて信頼なんです」
新谷:「“つもり”って言葉、便利ですよね。加害者じゃない“つもり”、無視してた“つもり。全部、“つもり”で済んでるうちは楽ですから」
ようやく何かに気づいた木立がつぶやく
(カメラ目線)(決めショット)(切り替えカット)
木立「自分がやられてきたからって、他の人にもやっていいわけないもんな」
【シーン14劇団の稽古場 公民館の会議室13:30】
少しの間だけ自分の行いを悔やむが、すぐに忘れる木立[なかなか芸能業界がクリーンにならない象徴的シーン]
木立「悪かったって。じゃあ気を取り直して稽古始めるぞ、もう本番近いし」
和田「・・・本当に悪いことをしたって思ってます?」
木立「なんだよ、俺に土下座して謝れってのか?さっきからおまえら俺を誰だと思ってんだよ。和田、お前もうクビにするぞ、芸能界舐めんなよ」
和田「もう、やめます」
(カメラ目線)(決めショット)(切り替えカット)
和田「空気を壊すのって、勇気がいる。でも、それが未来を変えるって、僕は信じたい。変わらない空気なんて、ないんだから」
【シーン15劇団の稽古場 公民館の会議室13:35】
木立「あっそう、おまえ必ず潰してやるからな。覚えとけよ、おれと揉めたんだから、もう二度と役者できると思うなよ」
和田「お世話になりました」
木立「そうかそうか、良かったな西広、お前主役だぞ」
西広「ぼくもやめます」
木立「えっ?」
大倉「おれもやめます」
木立「えっ?えっ?」
新谷「私もやめます」
木立「はっ?」
愛乃「じゃあ私も」
希来「私もやめます」
手塚「私もやめる」
一人取り残される木立
木立「本気か?お前らこの業界から干してやるからな」
木立以外の全員「どうぞどうぞ」(感動的なのに笑える脳みそがバグるシーン)
【シーン16劇団の稽古場 公民館の会議室13:40】
新谷「自分たちでやりたいことやります」
手塚「嫌なことに我慢してまで出演しなくても、自分で作っちゃえばいいんだよ」
西広「そうですね、新しく劇団、作りましょう」
希来「いいね、それ。楽しい劇団にしたいな」
大倉「なんかワクワクする」
愛乃「劇団の名前どうしよう?」
新谷「和田さん、今何が食べたい気分ですか?」
和田「えっえーっと、餃子かな」
笑う一同
新谷「それいいかも。劇団ぎょう座」
手塚「劇団ぎょう座 笑」
大倉「劇団ぎょう座 笑」
西広「劇団ぎょう座 笑」
愛乃「劇団ぎょう座 笑」
希来「劇団ぎょう座 笑」
和田「えっこんな感じで決めちゃっていいの?」
新谷「なんか力の抜けた感じが緊張感なくていいですよね」
和田「普通もっとカッコつけるところだと思うんだけど」
新谷「私は好きです、劇団ぎょう座」
和田「ほんとにいいの?」
手塚「ぎょうだけひらがなにして、ざを星座の座にすればいいんじゃない?」
希来「ああ、それいいかも」
西広「じゃあ和田さん主宰ってことで」
和田「えっ、ぼくが主宰?!」
愛乃「名付け親だし」
和田「名付け親って・・・」
大倉「よっ、劇団ぎょう座の主宰、和田昌俊」
西広「なんか、和田さんだったら人の痛みをわかってくれそうだから」
新谷「じゃあいきますよ」
全員がカメラ目線になる
全員「せーのっ、劇団ぎょう座」
『空気より重いもの』タイトルイン
♦エンディング開始(ワンカット長回し)♦
だれもいない稽古部屋に文字が浮かぶ
【演劇業界におけるハラスメント経験者:52%(うち女性74%)】
【声を上げることが 「空気」 を変える第一歩】
エンディングクレジット開始
和田が登場して手に持っている風船を膨らませる
1人ずつ順番に風船(空気は入ってるが)をバトンのように空気が抜けないように慎重に手渡していく
[セクハラやパワハラに対しての空気を全員が受け取っていく象徴的シーン]
最後は木立に渡される
みんなが風船を持って集まって(一人一人が空気は入ってるが結んでない)せーので風船を飛ばして笑顔になる
[セクハラやパワハラ被害者の空気を加害者がちゃんと受け止める。全員がそれぞれの空気を持ち寄って空中に飛ばす=みんなの気持ちが一つになる象徴的シーン]
END
『空気より重いもの』という作品について
「セクハラ」・「パワハラ」・「同調圧力」をテーマにしています
この物語は、演劇や映像の現場、そして芸能の世界に限った話ではありませんぼくたちが生きる、この日本社会全体に共通する“空気”の話です
「おかしい」と思ったことを、「言わない方がいい」と飲み込んだ経験はありませんか?「空気を読め」「波風を立てるな」「みんなそうしてる」そんな言葉に押し込められて、本当の自分の声をしまい込んでしまったこと、ありませんか?
誰もが「空気を読んで」やり過ごそうとしてきました
しかし、本当にそれは“仕方のないこと”なのでしょうか?ぼくたちは“笑って受け流す”ことを強いられながら、いつの間にか「声をあげないこと」が最も正しい行動のように思い込まされている気がします
ぼくはこの作品で、「沈黙は優しさ」ではなく、「沈黙が加害を支えてしまう」という現実を描きたいと思いましたそれは誰かを責めたいからではありません
この作品に登場するのは、誰の中にもいるような、ぼくたちの鏡です黙って笑ってやり過ごしてきた和田や「昔はこうだった」と語る木立や空気を読むことで生き延びてきた大人たち。そして、初めて声をあげる若い世代
それぞれが、それぞれの立場で悩み、葛藤し、傷つきながら、少しずつ変わっていこうとします
“風船”は、この作品の大切なモチーフですふくらませた風船は、目には見えなかった“空気”を、ようやく形にしたものそれは「この痛みが確かにあった」と証明する、静かな叫びです割れた風船は「限界」の象徴であり、手渡された風船は「受け継がれる意思」の象徴でもあります
そして、最後のエンディングシーンで膨らませた風船たちは、誰の手にも結ばれることなく、ふわりと空中へ放たれていきます
それは、“閉じ込める”のではなく、“解き放つ”という選択です痛みも、声も、想いも、ちゃんと形にして、共有して、でも誰にも縛られることなく自由に飛ばしていくそのとき初めて、ぼくたちは「ひとつの空気」を分かち合えるのだと信じています
この物語が、誰かの心に届いて、小さくてもいい、たった一つでもいい、「空気を変えたい」という思いの種を残せたならそれは、きっと未来を変える光になると、ぼくは信じています
静かに、そして確かにその空気に風穴を開けたとき、誰かの心が動くその“動き”こそが、変化の第一歩になるはずです
どうか、この作品を通して“あなたの中の空気”が少しでも軽くなりますように
和田昌俊
参考URL
無断転載・無断使用禁止
この脚本を使用する場合、必ずご一報ください
ご連絡は「劇団ぎょう座」のメールまたはInstagramのDMまでどうぞ
劇団ぎょう座 メール
和田昌俊 Instagram
カット割台本
――――――――――――――――――――――――――――――――――― [カット1]
固定 机の上の風船が映る
劇団の稽古場に集まった和田、木立、新谷、愛乃、希来、手塚、大倉、西広の全員
立ち稽古中の和田を指導している木立
和田の手には膨らませていない風船が握られている
固定 机の上の風船が映る
和田「ぼくと一緒に希望を膨らませようよ」[オンリー][編集でオンリーにするので撮影時はこの部分からお芝居]
木立「うーん、ダメだなあ。もう一回」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
[カット2]
『空気より重いもの』の台本が映る
和田「ぼくと一緒に希望を膨らませようよ」[オンリー]
木立「ダメダメ、全然なってない」[オンリー]
固定 呆れたように見つめている西広・手塚・新谷ワイドカット&CU
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
[カット3]
和田「ぼくと一緒に希望を膨らませようよ」
固定 呆れたように見つめている希来・愛乃・大倉のワイドカット&CU
木立「ああもう、さっきから全然ダメだって」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
[カット4]
映像開始[ここで和田と木立の2人がうつる]広い画角で固定カットで全体
セリフを言った姿勢のまま止まっている和田のそばに歩み寄る木立[和田と木立の2人が映る]
木立「おい、和田ぁその台詞、もっと艶っぽく言ってくれよ」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
[カット5]
固定 和田のお尻を触るCUカットとともに木立のセリフ。和田のお尻を掴みながら
和田のお尻をつかみながら指導する木立
木立「ほら、もっと腰の動き強調して。お尻の穴にギュッと力入れんだよ」
[カット6]
固定ビクッとなる和田CU
和田「……はい」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
[カット7]
やや引きのワイドショットで木立と和田をジンバルで撮る(鑑賞者もその場に立って目撃しているショット)
少し嫌がりながらも言われたとおりにする和田
和田「ぼくと一緒に希望を膨らませようよ」
木立「うーん、なんか声にエロさが足りないなあ」
和田の乳首を突きながら
木立「和田のやる気スイッチはどこかなあ?」
和田「ちょっ・・・」
木立「ここかな?ここかな?それともここかな?」
和田「いや、ちょっとやめてください」
嫌がりながらも笑って穏便にすませようとする和田
木立「カワイイなあその反応。ようやく艶が出てきたじゃん」
肩をつかんでニヤつく木立
和田「・・・ありがとうございます」
和田が逃げないと知った木立はまた乳首をつつく新谷「木立さん」ジンバルカメラ振り向いて新谷向け肩上ショット
新谷「それ“演出”ですか? それとも、ノリですか?」(止めるように)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
[カット8]
木立のアップカット 固定木立「え、演出だよ、もちろん。…空気悪くなるなぁ〜」(少しムカつきながら)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
[カット9]
愛乃のアップカット 固定
愛乃「“空気”…ね。……さっきからちょっと、近いですよ笑」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
[カット10]
引きで和田と木立 固定 大蔵と希来が見てる目線ショット
木立が和田の肩を軽く叩きながら笑う
木立「演技ってのはさ、距離の美学だよ。リアルに近づかないと伝わらないから」
木立が調子に乗って和田の首筋に息を吹きかける
和田「・・・はい」
嫌がりながらも拒絶しない和田
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
[カット11]
固定 ワイドショット斜め横から大倉と希来の顔が映る角度(木立と和田の肩越しorやや横顔越しで両者のやりとりが映るように。この際、希来と木立にピンマイク装着。大倉はやや大声で希来ピンマイクで声録音)
大倉「主役はいいなあ。ぼくも直接木立さんに演技つけてほしいです」(媚びるように)
木立「おまえには10年早いっての」
希来「あの、このシーンってエロさとか艶とか必要ないですよね?」(冗談っぽく)
木立「演出ってのは、現場で作るもんでしょ。空気、壊さないで?」(指さしながら)
希来、曖昧に笑って沈黙
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
[カット12]
固定正面or斜め正面から木立&和田のバストアップ
木立「おい、和田が演技ダメダメだからなんか空気悪くなったぞ。どう責任とんだ?」
木立が和田のお尻を叩く(和田のお尻を叩くCUをインサートカットイン。別撮り差し込む)
ビクッとする和田
和田「・・・はい、ごめんなさい」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
[カット13]
ジンバルでカメラ移動しながらor固定首振りor固定ワイド[当日の現場での広さや立ち位置次第で決定]
新谷「…今の完全アウトじゃない?」
希来「今のはさすがにちょっと…」
抗議しようとする新谷を引き留める手塚
手塚「なにも言わない方がいいよ。こんなのよくあることだし」
新谷「・・・見て見ぬふりって、楽だもんね」
愛乃「めんどうな奴って思われたら仕事なくなっちゃうよ、それでもいいの?」
大倉「木立さん、この業界に顔が広いですもんね」
不安そうに話を聞いている西広
木立「おい、西広」 [オンリー]
西広「はい」(突然呼ばれて驚く)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
[カット14]
木立アップ やや斜めから固定
(木立の顔の奥に和田の嫌そうな顔と対比させて)
木立「よく見とけよ、おまえにもあとで演技ちゃーんとつけてやるからな」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
[カット15]
西広アップカット 固定肩上(木立目線でカメラは首を下にたたく。西広はやや上目使いで木立との高低差=立場の高低差を演出すること)
西広「・・・はい、よろしくお願いします」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
[カット16]
大倉の座った位置から見上げるカット固定(大倉目線)
木立は西広の方から顔を大倉へと動かして
木立(笑って)「これくらい普通だよな? なあ大倉?」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
[カット17]
大倉斜め顔ショット 座った高さから固定(カメラは演者の1人が横を向いた目線の同調圧力を象徴するカット)大倉越しに新谷・希来・愛乃・西広・手塚のあきらめ顔も映るとベスト
大倉(曖昧に笑って)「……まあ、普通によくあること…ですよね、こういうの」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
[カット18]
固定で正面から和田と木立→画面内で最後は2人とも向き合って和田と木立の横顔対決ショット(両者の対立を象徴するカット)
木立「なんか勘違いしてるみたいだけど、おれに演技つけてもらえるなんて光栄なことなんだぞ」 は大倉たちの方を見ながら。そのあと和田の方を向いて
大倉たちに言い放った後に和田の方を向く木立
和田の顎をくいっとつかむ木立
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
[カット19]
固定 木立アップ
木立「見込みのある奴にしかおれは本気で演技つけないんだから」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
[カット20]
固定(返し)和田アップ
和田「・・・ありがとうございます」
和田は目を逸らして笑ってごまかす
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
[カット21]
固定遠くから全体を映す広角ショット まるで一瞬時が止まったような感じ
気まずい空気に包まれる稽古場
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
[カット22]
ジンバルで動きながら最後は希来の肩上アップまで持っていく(ピンマイクは木立&希来または大倉&希来で木立がやや大声で大倉マイクで録音)
最初はワイドショットで全体のあとカメラスライドしながらあきれ顔を映しつつ最後に希来にきて止まる
木立「いや、そんなマジでとらないで〜、空気悪くなるよ?」(冗談ぽくおちゃらけて)
大倉「じゃ、じゃあ今日も空気あっためていきましょう〜」(無理矢理明るく)
木立「おれ、コーヒー飲んでくるわ。さっきのエロい感じ忘れんなよ」
和田「はい」
希来「でも、やっぱり……変ですよ」(小声で)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
[カット23]
固定CUインサートカット(和田の手の中で握りしめられた風船)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
[カット24] 部屋の隅でぶつぶつさきほどのセリフを練習している和田
固定首振り 臍上 和田と新谷の正面 最初は首を右向けにしておき、画面フェードイン新谷を左パンで追いながら最終的に和田画面左新谷右で安定させる パンが難しければ最終地点で固定のまま新谷フェードインしてくるカット
【シーン2劇団の稽古場 公民館の会議室11:40】
休憩中の稽古場
和田のそばにくる新谷
新谷「ねぇ、無理して笑わなくていいよ。あれ…つらいでしょ」
和田は風船を手で揉むようにしている和田「ぼくは、ただ・・・空気を壊したくないだけなんです」
新谷「それ、“触られていい人”っていう空気を勝手に作ってません?」
和田、言葉につまる
和田が風船を膨らませて静かに空気を吐く。風船を見つめる和田
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
[カット25]
固定CU新谷目線からの和田の手元インサートカット(和田の手に持った空気の入った風船)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
[カット26] 台本を手元に用意しながらでOK。時折台本を見てもOK
固定、引きで足下くらいまで。五人の登場人物の個性を活かしつつ芝居のリズム感(日常感を演出)
並びは女性三人前に対して男性二人が後ろに座ると顔が全員映る(記念写真構図)
ピンマイクは中央の椅子付近に設置して台本でカバーする
もし余裕があるならジンバルで引きから少しずつカメラ寄るカットだとGOOD
いずれにしてもシーン3はワンカットで撮ること(群像劇感)
【シーン3劇団の稽古場 公民館の会議室11:45】
雑談をしている西広・愛乃・希来・手塚・大倉
西広「木立さんの行動って稽古進むごとにどんどんエスカレートしてません?」
大倉「さすがに今日のはちょっと空気悪かったね」
愛乃「空気なんていつも悪いわよ。あの人の現場は特に」
希来「でも、やっぱり……変ですよ。手塚さんもそう思いません?」
手塚、そっと和田を見つめる。
手塚「私もそう思うけどさ。でも、自分も昔は“触られたうちに入らない”って言われた世代で…ずっと黙ってきた」
愛乃「私も“女優なら愛されて当然”って言われたことある」
手塚「“ちゃんと断らないと伝わらない”って、なんで被害者が責められるんだろう」
希来「でも、空気読めって、ほとんど“黙ってろ”って意味で使われてますよね」
愛乃「“空気悪くなる”って言われるの、たいてい何かを言おうとした人だよね…」
手塚(苦笑)「“空気”読んじゃうんだよね、私たち、ずっと」
西広「この業界入ったとき、“空気を壊すな”って、よく言われてきました」
手塚「空気よりも自分のキャリアを大事にしたほうがいいんだよ。ほんとに」
希来(ぼそっと)「でもあれ、普通じゃないですよね。言った方がいいんじゃ・・・」
愛乃「わたしも昔、似たようなことあった。でも、演出だからって言われちゃって」
手塚「“演出”って便利な言葉だよね。“やれ”って言われなくても、空気で従っちゃう」
愛乃「“気まずくなる”のって、言った方じゃなくて…やられた方なんだよね、だいたい」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
[カット27]
固定CUインサートカット(風船が机の上に転がる。大きく膨らんでいる)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
[カット28]膨らんだ風船を和田が常に持っていること
固定 首振り全体やや引き、斜めから、和田の左頬ねらいで足下くらいまで。カメラ左に大倉・希来・愛乃が少し映るとベスト
カメラ右からフェードインして木立がどつく。どついてよろける和田をカメラ首を下に向けて追う(難しければ固定のままで和田がフェードアウト)
ピンマイクは木立の正面(カメラからは見えないところ)に露出装着で音を拾う
【シーン4劇団の稽古場 公民館の会議室12:45】
休憩が終わり、稽古が再開された稽古場
立ち稽古中の和田を指導している木立
和田「ぼくと一緒に希望を膨らませようよ」
木立「和田ぁ、もっとエロい存在感だせよ、そんなんじゃ目立たねえよ、おまえはただの空気かよ」
和田につかつかと歩みよる木立が和田の肩をどつく
和田がこけて尻餅をつく
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
[カット29]
固定CU(インサートカット 膨らむ風船。和田が膨らませる映像=感情が膨らむ象徴)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
[カット30]和田は膨らませた風船を持っている
ジンバルで和田を中心に一緒に動く。最後の和田のセリフの時にカメラぐっと和田に寄る。難しければ固定で首振り上下のみ。
尻餅をついた和田が立ち上がる
【シーン5劇団の稽古場 公民館の会議室12:50】
しばらく沈黙する和田が絞り出すように言う
和田「・・・ぼくは空気なんですか?」
木立「なんだよ、ただの冗談だろ。マジになんなよ」[オンリー]
和田「“冗談”って言われると、なかったことにされる。……なかったことにされたら、ぼくがそこにいなかったみたいになるんです」 (間)和田「僕だって、息をしてます。ここにいます」
目を合わせずに下を向いたまま絞り出すように言う和田
[カット31]和田は膨らませた風船を持っている
ジンバルで木立の顔左頬ねらいアップから引いて和田と木立のツーショット。最後は木立にアップで終わる(次のカットのために最後は和田を映さない)
木立「いい。いいよ和田、その感じ。やっと本気の和田が出てきたじゃん。俺、素直に好きだわそういうの」
木立が近づき和田の肩に手を置こうとするのを振り払う和田
和田「それ、演出ですか? それとも……ただの“癖”ですか?」
木立「どうしたんだよ、和田。おまえおかしいぞ」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
[カット32]和田は膨らませた風船を持っている
固定 和田のアップ
少しの間
和田(勇気を出して)「最近…触られるの、ちょっとつらくて」
[カット33]和田は膨らませた風船を持っている
固定 正面から和田と木立の臍上ツーショット
木立(鼻で笑って)「は?役者だろ?その程度のことでヘコんでどうすんの」 (間)木立「やる気ないなら、西広に代えるぞ?」指or顎でくいっと示す
西広(びくっとする)「……」(固定一瞬だけのインサートカットを別撮りで差し込む)
木立「笑って流せよ、それくらい」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
[カット34]和田は膨らませた風船を持っている
CU〈:和田が膨らんだ風船を手に、強く握りしめる。まだ割らない〉
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
[カット35]
ジンバルで和田が見ている目線カメラ 和田の立ち位置から木立→西広→希来→西広とカメラを振る ピンマイクは木立と希来
【シーン6劇団の稽古場 公民館の会議室12:55】
木立「和田がやる気ないなら、西広、おまえに主役交代させるから」
希来「……もう、見て見ぬフリはできません」視線を西広に送る希来
西広は沈黙 → 一歩前に出る。決意を込めて
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
[カット36]和田は膨らませた風船を持っている
固定 西広の右頬ねらいで臍上ショット 全体が映る ピンマイクは西広と木立
西広「嫌です」
木立「は?」
西広「……ぼく、最初は……主役、もらいたいって思ってました。でも……いまは和田さんの役をもらいたいなんて思いません」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
[カット37]
固定(カメラ目線)(決めショット)(切り替えカット)
西広「間違った方法で役をもらっても、僕は心を込められない」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
[カット38]和田は膨らませた風船を持っている
固定 首振り 座っている希来視点のカメラ あおりで木立から首を振って最後和田へ ピンマイクは木立と和田 ピンマイクがあるので怒鳴らなくていい
【シーン7劇団の稽古場 公民館の会議室13:00】
木立「おいおい、べつに和田は嫌がってないじゃん。笑ってたじゃん。みんなも見てただろ?なにムキになってんだよ」(見てただろ?のときにカメラ目線になる)
和田「笑ってたのは、笑うしかなかったからです!」
決意を込めて言う和田
和田「ボディタッチとか嫌だったけど、全部演出のためだと思ってました。でも…笑って流してたら、何も起きてないことになるんですか?」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
[カット39]
CU 固定〈クローズアップカット:和田が風船を強く握る → パンッ! と破裂
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
[カット40]
固定 西広目線のカメラ 大倉の右頬狙い=木立の左頬狙い ピンマイクは木立と大倉
【シーン8劇団の稽古場 公民館の会議室13:05】
木立「なに言ってんだよ。いやいや、演出だから。な、大倉? これ、普通だよな?」
大倉「……普通かどうかじゃなくて……その、本人が嫌がってるなら…」
木立「は? なにそれ?」
大倉「俺……木立さんの作る芝居、大好きでしたよ。でも、それと、黙って一緒に笑ってたのは…違ったんだって、今思います」
一歩前に出る大倉は和田を見る
大倉「俺、木立さんみたいになろうって、ずっと背中を追いかけてたんです。でもそれが、誰かを傷つけてたなら…俺も加害者です」
――――――――――――――――――――――――――――――――――ー
[カット41]
カメラは和田目線 固定 首振り 最初は西広 最後は手塚で止まる ピンマイクは
手塚と西広
西広「僕、この業界で、“空気を読める奴”になれってずっと言われてきました。でも今日、“読まない強さ”を初めて見た気がします」
そう言って和田の方を見つめる西広
手塚「和田さん、ごめんね」
和田のほうに歩み寄る手塚
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
[カット42]
カメラは木立目線 固定 和田に向かって話す手塚の正面やや右頬狙い ピンマイクは手塚
手塚「あのとき、何度も言おうとした。でも、“今言うと現場が止まる”って声が、頭の中で響いてた。…気づけば私、“黙るのが上手”になってた」このあと木立(カメラのほう)を向く→次のカメラ目線ショットのため忘れずに
――――――――――――――――――――――――――――――――――ー
[カット43]
固定(カメラ目線)(決めショット)(切り替えカット)
手塚「黙るって、同意してるって思われるんだよ。空気を壊すのって、怖い。でも……壊さなきゃ、なにも変わらない」
――――――――――――――――――――――――――――――――――ー
[カット44]
カメラは和田目線 固定 首振り
【シーン9劇団の稽古場 公民館の会議室13:10】
愛乃「ごめん…私も、見てたのに、何も言えなかった」
和田のほうに歩み寄る愛乃
愛乃「“普通”って言葉、便利だなって思います。“みんなそうだから”って一言で、誰かの痛みを隠せる。でもその“みんな”に、私はなりたくない」みんなに訴えるように
――――――――――――――――――――――――――――――――――ー
[カット45]
固定(カメラ目線)(決めショット)(切り替えカット) 和田の方を語りかけている愛乃
愛乃「沈黙は安全だけど、正義じゃない」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
[カット46]
カメラは木立目線 固定 みんなに向かって話す希来の正面やや右頬狙い ピンマイクは希来
【シーン10劇団の稽古場 公民館の会議室13:15】
和田のほうに歩み寄る希来
希来「私……前の現場で、同じようなことがあって。向こうが悪いのに、なぜか私が謝らされて・・・“見て見ぬふり”って、加害者になるのと何が違うんですかね?」最後に和田の方を向く
[カット47]
固定(カメラ目線)(決めショット)(切り替えカット)
希来「声を出したら、全部壊れると思ってた。……でも、黙ってたら、自分が壊れるんです」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
[カット46]
カメラは木立目線 固定 木立に向かって話す大倉の正面やや右頬狙い ピンマイクは大倉
Orもしもカメラで狙えそうなら横から全体の引き固定で全員の位置関係を映す
【シーン11劇団の稽古場 公民館の会議室13:20】
大倉「“これくらい普通”って、俺が言ったから、木立さんも大丈夫だと思ったんですよね。でも、あれは“普通”じゃなかった。…今さら気づくなんて情けないけど、もう黙ってたくないです」最後に和田の方を向く
[カット47]
固定(カメラ目線)(決めショット)(切り替えカット)
大倉「俺、自分が“無害”だって信じてた。……それが一番こわい」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
[カット48]
カメラは和田目線 固定 首振り
【シーン12劇団の稽古場 公民館の会議室13:25】
和田のほうに歩みよる新谷
新谷(深く頷きながら)「“空気を読め”って、便利な言葉ですよね。でももう、“空気を変えよう”って言ってもいいんじゃないですか」最後に木立の方を向く
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
[カット49]
固定(カメラ目線)(決めショット)(切り替えカット) 木立に向かって語っている
新谷「空気、変えましょう。私たちが“読む”んじゃなくて、“つくる”側になって」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
[カット50]
固定 木立の後頭部ごしの新谷と手塚 ピンマイクは木立に露出装着と新谷
【シーン13劇団の稽古場 公民館の会議室13:25】
木立「いや、おれそんなつもりじゃなかったんだって」みんなを見回して言い訳するように
手塚「その“つもり”が一番怖い。壊れてるの、空気じゃなくて信頼なんです」一歩前に出てセリフを言う→木立のピンマイクに向かって話す
新谷:「“つもり”って言葉、便利ですよね。加害者じゃない“つもり”、無視してた“つもり。全部、“つもり”で済んでるうちは楽ですから」
[カット51]
ようやく何かに気づいた木立がつぶやく
固定(カメラ目線)(決めショット)(切り替えカット) 新谷に向かって語っている
木立「自分がやられてきたからって、他の人にもやっていいわけないもんな」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
[カット52]
固定 木立と和田の2ショット臍上くらい 場合によっては新谷と手塚の後ろ姿ごしで
ピンマイクは木立と和田
【シーン14劇団の稽古場 公民館の会議室13:30】
少しの間だけ自分の行いを悔やむが、すぐに忘れる木立[なかなか芸能業界がクリーンにならない象徴的シーン]
木立「悪かったって。じゃあ気を取り直して稽古始めるぞ、もう本番近いし」少し後ずさりしながら
和田「・・・本当に悪いことをしたって思ってます?」
木立「なんだよ、俺に土下座して謝れってのか?さっきからおまえら俺を誰だと思ってんだよ。和田、お前もうクビにするぞ、芸能界舐めんなよ」二歩くらい下がってみんなと距離を取ること。木立の孤立を強調する&ラストカットで映り込みを防ぐため
和田「もう、やめます」
[カット52]
固定(カメラ目線)(決めショット)(切り替えカット)
和田「空気を壊すのって、勇気がいる。でも、それが未来を変えるって、僕は信じたい。変わらない空気なんて、ないんだから」
[カット53]
固定 全体引き ピンマイクは和田と木立 他の人物はやや大きな声でどちらかのマイクで声を拾う シーン15は勢いとリズム感が大事なのでワンカット長回し
【シーン15劇団の稽古場 公民館の会議室13:35】
木立「あっそう、おまえ必ず潰してやるからな。覚えとけよ、おれと揉めたんだから、もう二度と役者できると思うなよ」
和田「お世話になりました」
木立「そうかそうか、良かったな西広、お前主役だぞ」
西広「ぼくもやめます」
木立「えっ?」
大倉「おれもやめます」
木立「えっ?えっ?」
新谷「私もやめます」
木立「はっ?」
愛乃「じゃあ私も」
希来「私もやめます」
手塚「私もやめる」
一人取り残される木立
木立「本気か?お前らこの業界から干してやるからな」
木立以外の全員「どうぞどうぞ」(感動的なのに笑える脳みそがバグるシーン)
[カット54]
ジンバル 木立目線のカメラ 新谷正面からみんなと一緒に動いていく(自分も仲間の一人みたいなカメラの動き)最後は離れて全体が映るようにする
ピンマイクは和田と新谷 他の人の声はどちらかのピンマイクで拾うこと
難しければ和田とジンバルに手持ちピンで簡易棒マイクにする シーン16はワンカット長回しでいくこと
【シーン16劇団の稽古場 公民館の会議室13:40】
新谷「自分たちでやりたいことやります」
手塚「嫌なことに我慢してまで出演しなくても、自分で作っちゃえばいいんだよ」
西広「そうですね、新しく劇団、作りましょう」
希来「いいね、それ。楽しい劇団にしたいな」
大倉「なんかワクワクする」
愛乃「劇団の名前どうしよう?」
新谷「和田さん、今何が食べたい気分ですか?」
和田「えっえーっと、餃子かな」
笑う一同
新谷「それいいかも。劇団ぎょう座」
手塚「劇団ぎょう座 笑」
大倉「劇団ぎょう座 笑」
西広「劇団ぎょう座 笑」
愛乃「劇団ぎょう座 笑」
希来「劇団ぎょう座 笑」
和田「えっこんな感じで決めちゃっていいの?」
新谷「なんか力の抜けた感じが緊張感なくていいですよね」
和田「普通もっとカッコつけるところだと思うんだけど」
新谷「私は好きです、劇団ぎょう座」
和田「ほんとにいいの?」
手塚「ぎょうだけひらがなにして、ざを星座の座にすればいいんじゃない?」
希来「ああ、それいいかも」
西広「じゃあ和田さん主宰ってことで」
和田「えっ、ぼくが主宰?!」
愛乃「名付け親だし」
和田「名付け親って・・・」
大倉「よっ、劇団ぎょう座の主宰、和田昌俊」
西広「なんか、和田さんだったら人の痛みをわかってくれそうだから」
新谷「じゃあいきますよ」
全員がカメラ目線になる
全員「せーのっ、劇団ぎょう座」
『空気より重いもの』タイトルイン
[カット55]
固定 引き ホワイトボード前
♦エンディング開始(ワンカット長回し)♦
だれもいない稽古部屋に文字が浮かぶ
【演劇業界におけるハラスメント経験者:52%(うち女性74%)】
【声を上げることが 「空気」 を変える第一歩】
エンディングクレジット開始
和田が登場して手に持っている風船を膨らませる
1人ずつ順番に風船(空気は入ってるが)をバトンのように空気が抜けないように慎重に手渡していく
[セクハラやパワハラに対しての空気を全員が受け取っていく象徴的シーン]
最後は木立に渡される
みんなが風船を持って集まって(一人一人が空気は入ってるが結んでない)せーので風船を飛ばして笑顔になる
[セクハラやパワハラ被害者の空気を加害者がちゃんと受け止める。全員がそれぞれの空気を持ち寄って空中に飛ばす=みんなの気持ちが一つになる象徴的シーン]
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
暗転するが笑い声だけがまだ聞こえている
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
END

댓글