きみのいない世界(改訂版)
- 昌俊 和田
- 12 時間前
- 読了時間: 7分
『きみのいない世界』
第三稿
作・和田昌俊
登場人物 3 名メインキャスト
井上悠人(いのうえゆうと)
美桜の彼氏。美桜に呼び出されて部屋で話をする。付き合ってしばらく経つがまだ肉体関係は結んでいない。美桜のことを大切に想っているが口下手でうまく伝えられない。美桜にプロポーズする
斉藤美桜(さいとうみお)
悠人の彼女。元カレが遊び人だった。悠人は初めてのタイプだったがいい関係を築いている。肉体関係にならず、結婚の話もしない悠人に半ば愛想を尽かしている。悠人に別れ話をする。玲奈とは親友
森下玲奈(もりしたれいな)
かつて悠人と付き合っていた。同棲していた悠人に別れ話を切り出した過去がある。
今は美桜の親友。今でも悠人に未練がある。感情を表に出すのが苦手。過去の痛みは飲み込んだまま、人を見守る強さを持つ
※本作において身体的接触少しだけあります(腕を掴む。手を握る。抱きしめる)セリフにセクシュアルな表現はありません。肌の露出はありません。暴力的表現ありません。喫煙・飲酒シーンはありません
【美桜の部屋 シーン 1】
窓辺に玲奈、ソファに美桜。静寂が続く部屋
玲奈(小さく)「来るんだ、今日」
美桜(うなずく)「…うん」
玲奈「話すの?」
美桜「うん」
玲奈「言える?」
美桜、言葉に詰まり、うつむく
玲奈(少しだけ間を置いて)「そっか」
沈黙
美桜「……もし、全部話したら、嫌われるかな」
玲奈「たぶん、傷つく。でも、逃げるかどうかはあいつ次第でしょ」
美桜(息を飲んで)「ねえ、玲奈は、別れるとき怖くなかった?」
玲奈(視線を逸らして)「……めっちゃ怖かった。美桜に比べたら私の当時の悩みなんてささいなものだけど、いま思えば、ただ怖かっただけだったのかも」
美桜「話し合うってけっこう勇気がいるよね」
玲奈「うん。でも、今でも時々思うよ。あのとき、ちゃんと目を見て言えてたら、何か違ってたかなって」
美桜「…玲奈…ごめん、こんな時に、こんなこと」
玲奈「忘れないで。怖いって気持ちが、いちばん誰かを遠ざけるってこと」
美桜「うん」
チャイムが鳴る。ふたりが視線を合わせる
玲奈「行ってきな。深呼吸、ひとつ」
美桜、ゆっくり立ち上がり、深く息を吸って吐く。ドアの方へ向かう
不安そうな玲奈の顔のクローズアップ
【美桜の部屋 シーン 2】
悠人、室内に入り、玲奈に気づく
悠人「……あ」
玲奈(微笑んで)「どうも。ひさしぶり」
悠人「うん。まさか来てるとは…」
玲奈「もともと二人で住んでたんだし別にいいでしょ」
少しの沈黙
玲奈「……席、外そうか?」
美桜「いてほしい」
玲奈、軽くうなずいて、部屋の隅に腰を下ろす
少し不安そうな悠人の顔のクローズアップ
【美桜の部屋 シーン 3】
悠人と美桜が部屋で座っている
美桜は浮かない表情
悠人はなにか違和感を感じつつも口を開く
悠人「好きだよ」
美桜「ありがと」
悠人「どうしたんだよ」
美桜「別れよ」
悠人「なにがあったんだよ」
美桜「べつに」
悠人「昨日の電話、ちょっと様子がおかしかったけど、なんかあった?」
美桜「知らないほうがいいと思う」
悠人「おれのこと嫌いになった、とか?」
美桜「そう、嫌いになった。これでいい?」
悠人「ウソつくなよ」
茶化すようにふざけて美桜をつつく
美桜「触らないで」
拒絶する美桜
美桜「もう一緒にいたくないの」
悠人「なんだよそれ」
美桜「いいからもう別れてよ」
美桜の雰囲気に戸惑いつつも決心した様子で指輪を取り出す悠人(悠人は結婚について話さないから美桜が怒っているんだと勘違いしている)
悠人「おれ、これからのこと真剣に考えてる」
玲奈がはっと驚くような表情になる
プロポーズする悠人
悠人「結婚しよう」
美桜「バカじゃないの」
美桜は戸惑いを隠せない。その様子を見て悠人は美桜が照れているんだと思い込む
悠人「返事は YES ってこと?」
美桜「タイミング考えてよ」
真剣な表情の美桜
悠人「別れる前に言えたから上出来」
美桜は決心したように告白する
美桜「エイズ。昨日元カレから連絡きた」
悠人「えっ?」
美桜「検査したけど結果はまだ。でも…たぶん、ダメだと思う。あの人と、ちゃんと別れるまでに、時間がかかってたから…」
何も言えずにショックを受けている悠人
美桜「別に無理して私と付き合う義理ないから、別れよ」
美桜は今までとは違って悲しそうに言う
美桜「バカな男と付き合った私のせいで、迷惑かけちゃったね、ごめんね」
悠人(絞り出すように)「……それで、別れようって?」
美桜「うん。あなたに責任なんてないのに、私の不安を背負わせるの、絶対に嫌だから」
美桜、笑いながら泣く
美桜「私が選んだ過去のせいで…あなたの未来を壊したくないの」
悠人はしばらく考えたあと、美桜にもう一度指輪を差し出す
悠人「きっと乗り越えられるよ」
美桜「簡単に言わないで」
悠人「本気だ」
美桜は悠人の顔を見ると自分の決心が揺らぎそうになるのを感じる
美桜「もう信じられない」
立ち去ろうとする美桜
悠人「行くな」
腕をつかんでひきとめる悠人
悠人「愛してる」
美桜「おそいよ」
美桜は自分の過ちについて言っているが、悠人は自分のプロポーズのことだと思い込む
悠人「わかってる」
美桜「乗り越えられるわけないじゃん」
悠人「それでも一緒にいる」
美桜「意味ないじゃん」
悠人「意味なんてなくていい」
美桜「意味わかんない」
悠人「きみのいない世界に意味なんてない」
美桜「やめてよ」
悠人「俺から離れるな」
美桜「やめてよ」
悠人「どこへも行くな」
美桜「やめてよ」
悠人「愛してる」
美桜「信じたくなっちゃうじゃん」
悠人「愛してる」
美桜「無理」
悠人「愛してる」
美桜「無理」
悠人「愛してる」
美桜「無理」
そう言って振り返ると悠人の腕を引き寄せる美桜
美桜「もう離れてあげない」
抱きつく美桜をそっと抱きしめる悠人
悠人「もう離さない。おれがプロポーズしたのは“安心させたいから”じゃなくて、“一緒に不安を乗り越えたいから”なんだよ」
美桜が顔を上げて、涙の奥で見つめる
玲奈がゆっくりと立ち上がる。ふたりを見て、微笑んで
玲奈「ようやく……カッコつけたじゃん。今日のあんたは、違ってた。ちゃんと、大人になったね」
涙をこらえながら笑う
玲奈「逃げない勇気って、ほんとはいちばん難しいのにさ」
泣きそうな声の玲奈
玲奈「……羨ましいな」
抱き合っていた美桜と悠人が離れる
美桜は悠人と手を繋いだまま玲奈を見る
美桜「ごめん、玲奈……」
玲奈(小さく笑って)「なにそれ、謝るくらいなら絶対幸せになりなよ」
美桜「ありがとう」
玲奈「泣きたい時はちゃんとコイツの腕の中で泣くんだよ。それが“愛される”ってことでしょ?」
美桜「うん」
玲奈、微笑んで
玲奈「…元カノ代表としては、以上です」
美桜「これからも親友でいてくれる?」
玲奈は一瞬、言葉を探す。でもすぐに、静かに頷く
玲奈(ゆっくりと、ふたりを見て)「これから先、いっぱい不安なことがあると思うけど。それでも、ふたりが一緒なら、大丈夫だよ」
玲奈は悠人と美桜に歩み寄り、二人の空いている方の手をつかんで繋ぎ合わせる
まるで新郎新婦をとりもつ神父のような玲奈
美桜、少し涙ぐみながら微笑む
美桜「…なんか今のセリフ、母親っぽくてウケる」
玲奈(ふっと笑って)「結婚式、呼ばなかったら許さないからね。思いっきり泣いてやるんだから」
3 人、同じ部屋で笑い合う
悠人、美桜、玲奈のそれぞれの笑顔のクローズアップ
机の上のリングが光っている(希望の象徴カット)
【HIV 感染者/AIDS 患者の死者数は年間約 65 万人】
【新規感染者は年間約 150 万人】
END
『きみのいない世界』という作品について
「HIV 感染およびエイズ発症」と「結婚相手が性感染症だったら」がテーマです
性感染症は将来のパートナーにまで影響します
結婚相手がもし性感染症だったとしたら、その愛は冷めてしまうのかそれとも二人で乗り越えられるのか
タイトルの『きみのいない世界』は登場人物の三人それぞれが、お互いが存在しない世界を想像しているという意味です
自分が本当に大切にしたい人ができた時に後悔しないためにも、リスクについて正しく知り、危険を回避する力を身につけなければいけません
怖いという気持ちが人を遠ざけます
正しい知識を持ち、必要以上に恐れず後悔の無い生き方をすることが大切だと思い
ます
様々な条件や状況で「HIV 感染およびエイズ発症」をしてしまったとしても人生は続いていきます
希望を捨てずに生きるには愛の力が必要です
病に立ち向かう愛の力を、病に苦しむすべての人が得られることを願ってこの脚本を書きました
和田昌俊
参考 URL
無断転載・無断使用禁止
この脚本を使用する場合、必ずご一報ください
ご連絡は「劇団ぎょう座」のメールまたは Instagram の DM までどうぞ
劇団ぎょう座 メール
和田昌俊 Instagram
Comments