『明日の気持ち』という作品について
噛み合わないコミュニケーションについて書きました。お互いに相手と向き合わなければコミュニケーションはうまくいきません
インターネットの発達にともなって、リアルな現実でのコミュニケーションに苦手意識を持つ人が多くなったように思います
文字ベースではない、リアルな会話によるコミュニケーションの場合は、リアルタイムで相手も一歩を踏み出さなければコミュニケーションが始まりません
自分のペースを守ることに慣れていると、お互いの関係性が進んでいかないということを描いています
タイトルの『明日の気持ち』は決断を先送りにしてしまうことを表現しています
コミュニケーションの難しさについて考えるためこの脚本を書きました
『明日の気持ち』
作・和田昌俊
メインキャスト2名
渡辺大和(わたなべ やまと)
ハゲデブ中年童貞。童貞を捨てたくて彼女を作ろうと必死になっている
現実逃避するため公園でぼんやりしていたところ、隣のベンチに座っていた女性に恋をする
女性が逃げずに話をきいてくれたことがうれしくて、それ以来よく公園を訪れるようになる
鈴木陽奈(すずき ひな)
無口な美人女性。読書が趣味で、お気に入りの公園のベンチで本を読んでいる。コミュニケーションが苦手で人とあまり話さない
愛読書は『蝿の王』
いつもイヤホンで音楽を聴いている
※本作において身体的接触はありません。セリフにセクシュアルな表現はありません。肌の露出はありません。暴力的表現はありません。喫煙・飲酒シーンはありません
ワンシーンのみ
【シーン1】昼間〜夕方の公園のベンチ
鈴木が公園のベンチで本を読んでいる
片手で髪の毛をかきあげると、イヤホンをしている
渡辺がやってきて鈴木を見つける
渡辺「ここ、座っていいですか?」
渡辺は鈴木のとなりのベンチを指さしてきく
鈴木はわずかに首を下げる
渡辺はOKだと思い込み、嬉しそうに隣に座る
渡辺「よく会いますよね。あっ髪型変えたんですね、前より少しこうふわっとしましたよね」
鈴木は読書に疲れた様子で、本から顔を上げて首を動かす
渡辺「あ、えっとぼく、渡辺大和って言います。毎回名乗ってるんで、もう覚えちゃいましたよね。おまえ、なんかい自己紹介するんだよっていう」
渡辺は恥ずかしいのか、鈴木のほうを見れないでいる
渡辺「ぼくも、よくこの公園くるんですよ。今日はだれかと待ち合わせとかですか?それまでしゃべっててもいいですかね」
鈴木は疲れた様子で少し顔を上げて公園の景色を見たあと、また本へ目線を落とす
渡辺「ぼくけっこう空気読めないんで、女の人としゃべるの苦手なんですけど、あなたといると、なんか話しやすいっていうか・・・あっイヤだったら言ってくださいね」
渡辺は鼻をヒクヒクさせる
渡辺「なんかいい匂いしますね、柔軟剤なに使ってるんですか?あっちょっと今の発言はキモかったですよね、すいません」
鈴木は軽く顎を引いてページの最後まで読むと本のページをめくる
渡辺「ぼく女の人とこんなにしゃべれたのはじめてだなあ。おうちってこの近所なんですか?あっ個人情報ですよね、すいません。ぼくの話って退屈じゃないですか?」
鈴木は次のページへと読み進め、顔を右から左へ動かす
渡辺「違う?大丈夫ですか?ああよかった」
渡辺はその反応を良い方に解釈して話し続ける
渡辺「今日は何読んでるんですか?ああ、その本ぼくも読みましたよ。いいですよねえ。主人公の葛藤が時代背景に照らし合わされて深く描かれていて、すごいなぁって思いましたよ」
鈴木は無反応のまま読書を続ける
渡辺「・・・本、お好きなんですね。今度一緒に図書館行きませんか?なんて、言ってみたり、とか、あっまだ早いですよね、付き合ってるわけでもないのに、なんかナンパみたいなことしちゃってすいません」
鈴木は軽く顎を引いてページの最後まで読むと本のページをめくる
渡辺はしばらく無言でモジモジしている
なにかを決意したように渡辺は鈴木のほうを向く
渡辺「あの、いまって付き合ってる人とかいたりしますか?良かったらもっと仲良くなりたいなあ、なんて思ったりしてるんですけど」
鈴木はしばらく無言で本を見つめたあと、腕時計をチラッと見て本を閉じる
鈴木は無言で立ち上がって去っていく
渡辺はその様子を見ながら
渡辺「あっ、明日もここで待ってますから。返事は今すぐでなくても大丈夫なんで」
歩いていく鈴木を見送りながら渡辺はつぶやく
渡辺「・・・無口な人だなあ」
暗転
タイトル
エンディング
エンディング終わり
暗転する直前の鈴木が映る
鈴木の歩いている姿、遠くに渡辺が映っている
左耳のイヤホンを外してカバンにしまいながら歩く鈴木
右手で髪の毛をかきあげると、イヤホンをしていない右耳が映る
歩きながら、少しうれしそうにつぶやく鈴木
鈴木「また明日も、お話しできるといいなあ」
END
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短編映画『明日の気持ち』劇団ぎょう座【第三作】
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