『希望の空』という作品について
男女同権と親子愛がテーマです
日本は先進国の中でも男女間の権利の差が激しい国です。たとえば遺族厚生年金は子どものいる妻の場合は年齢制限なく受け取れますが、夫が受け取る場合は死亡当時に55歳以上でないとダメという制限があります(つまり若い男性が専業主夫をする場合、妻に先立たれると遺族厚生年金を受け取れないリスクがある)
日本は理想ばかりが欧米のように男女平等を目指していますがシステムや仕組みが遅れているように思います
そこには「男性はこうあるべき」「女性はこうあるべき」という無意識の性差別が存在していると思います
タイトルの『希望の空』は娘として登場する人物の名前ですが、空から娘を見守る母親の視点を取り入れたくてつけています
男性でも女性でも自分らしく不安のない生活を送り、子どもが安心して育つことのできる環境になることを(少子化が深刻な日本に希望の空が広がることを)願ってこの作品を作りました
『希望の空』
第ニ稿
作・和田昌俊
高木晴翔(たかぎ はると)
専業主夫。妻に先立たれてしまい、経済的に困窮している
清水鉄也(しみず てつや)
高木晴翔の義兄。お金持ち。子どもがいないため姪を養子にしたいと考えている
高木希空(たかぎ のあ)
高木晴翔の娘。母親が亡くなってショックを受けているが気丈に振る舞う
高木希香(たかぎ ののか)
高木晴翔の妻。希空の母親。バリバリ働いていたが、急死した。夫と子供が心配でこの世にとどまっている。現実世界に干渉できずにもどかしい思いをしている。次第に自己の存在が薄れていくのを感じている
※本作において身体的接触ありません。セリフにセクシュアルな表現ありません。肌の露出はありません。暴力的表現はありません。喫煙・飲酒シーンはありません
シーン1【昼間の屋内】
高木晴翔と清水鉄也が話し合っている。その様子を不安そうに見つめている高木希空
鉄也「なあ、悪い話じゃないだろ」
晴翔「この子の父親はぼくです。ぼくが責任を持って育てます」
鉄也「その心意気は立派だけどさ、今まで専業主夫をしていたきみがどうやって生計を立てるんだ?」
晴翔「それは・・・妻の残してくれた貯金もありますし、しばらくは・・・」
鉄也「男が専業主夫なんておれは反対したんだよ。妹はずいぶんきみに惚れてたみたいだけど。男はやっぱ金を稼いでナンボでしょ」
晴翔「話し合って決めたことなんです。ぼくたちはうまくいってました」
鉄也「妹を働かせすぎたからポックリいっちまったんだろが」
鉄也の言い方にムッとする晴翔
鉄也「きみに子どもを育てるような余裕はないだろ」
晴翔「貧乏だけど、立派に育ててみせます」
鉄也「立派に育てるって、きみがそもそも立派な人物じゃないんだからたかが知れてるんだよ」
あたりを見回しながら嫌味ったらしく言う鉄也
晴翔「親が立派でなくったって、子どもが立派に育つことだってあります」
鉄也「亡くなった妹がきみのどこに魅力を感じたのかは知らないが、希空はおれの姪だ。おれが引き取る」
晴翔は無言で応じない
鉄也「よく考えろ。将来、この子が進みたい道が決まった時に、きみは経済的事情ってやつで夢を諦めさせるのか?」
晴翔「それは、できる限りのことをしたいと・・・」
鉄也「おれなら一流の学校に通わせられるし、留学だってさせてやれる。この子の将来のためならどんな投資もおしまないつもりだ」
晴翔「投資って・・・」
鉄也「なんだ?」
晴翔「子育ては投資じゃない」
鉄也「投資だよ。金を使うってのは結局投資だ。貧乏人ほど投資を嫌うってのは本当だな」
見下すような態度の鉄也
鉄也「これ以上争う気なら出るとこ出てもいいぞ。まあ、きみは弁護士を雇う金もないだろうけど」
一瞬ためらう晴翔
その瞬間を見逃さずに鉄也が希空に言う
鉄也「希空、こっちに来なさい。そうしないとパパが困るんだ」
意地悪な目線を晴翔に送る鉄也
希空は不安そうに晴翔を見つめる
晴翔は拳を握りしめながら振り絞るように言う
晴翔「・・・行きなさい」
希空「え?」
晴翔「おじさんと一緒に行きなさい」
希空「嫌だよ」
晴翔「いいから行くんだ」
希空はそれでもためらっていると鉄也が希空に言う
鉄也「ほら、こっちにくるんだ。今日からおじさんと一緒に暮らすんだぞ」
希空は拒絶する
希空「行きたくない」
鉄也「なんでも欲しいもの買ってあげる」
希空「いらない」
鉄也「おじさんと一緒にくればパパも喜ぶんだよ」
希空「そんなはずない」
鉄也「ね、そうだろ、パパ」
鉄也は最後通牒のように晴翔に向かって言う
晴翔はしばらく葛藤したあと、希空のほうへ向く
晴翔「希空、おじさんと一緒に行きなさい」
希空「嫌だよ」
晴翔「行かなきゃダメだ」
希空「パパと一緒がいい」
晴翔「悔しいけど、おじさんの言っていることは本当だ。おじさんと暮らしたほうが希空のためになるんだよ」
希空「パパと一緒がいい」
晴翔「いいから行きなさい」
語気を強める晴翔
希空は少しビクッとなるが、それでも拒絶する
希空「パパと一緒がいい」
晴翔は希空を見つめると今度は弱々しい口調になる
晴翔「パパは希空と一緒にいたくないんだ」
希空「え?」
晴翔「正直、負担なんだよ。子どもがいると就職活動うまくいかないからさ」
希空「なんでそんなこと言うの?」
晴翔「たった一人で子育てするだけでもしんどいのに、就活して仕事しながら育児だなんて無理だよ」
希空「私、自分のことは自分でできるよ」
晴翔「いやあ、だってそれも限界あるでしょ。結局仕事に集中できないし、ただでさえ専業主夫長いから就活不利なんだよ」
希空「パパのこと手伝うよ」
晴翔「だからおじさんのとこ行ってくれると助かるんだよ」
希空は信じられないという顔をしている
鉄也は立ち上がり
鉄也「さ、もう行こう。車待たせてあるから」
と手招きする
晴翔は無言で、希空に応じるようにアゴをくいっとしゃくって促す
希空はおずおずと鉄也の方に行く
鉄也「荷物は後日、人をやって取りに来させるからまとめておけよ」
希空は何度も振り返りながら鉄也についていく
鉄也「なにか美味しいもの食べようね」
鉄也は満足そうに部屋を出ていく
だれもいなくなった部屋に一人たたずむ晴翔
しばらく悩んだ末に追いかけようと立ち上がる晴翔
急いで靴を履き、いきおいよく玄関のドアを開ける
道を見渡すが希空たちの姿はもう見えない
晴翔は追いつけないとわかっていても、歩き出す
エンドクレジット
エンドクレジット後
部屋にポツンと座っている晴翔
三人で写っている家族写真を見つめている
唐突に玄関が開く音がする
部屋に入ってきた人物を見た晴翔は驚きつつも笑顔になる
希空が立っている。そばには希香が立っている。
希香がそっと背中を押すと希空が晴翔に近づく
晴翔が立って希空に近づく
二人の横から見守る希香
ピースを突き出す希空
しばらくして晴翔もピースを突き出す。希空のピースにくっつく晴翔の手
二人のピースにくっつく希香の手。三人のピースがくっついて三角の星の形になる
ふと気づいたように横を向く晴翔。つられて希空も横を向く。
ほほえむ希香は消えかかっている。
晴翔はなにかを感じ取っている様子だが、希空はわからない
完全に消えてしまい見えない希香
タイトル
タイトル後
希香の手が晴翔の肩に置かれている
晴翔の手が希香の手に重なる
END
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短編映画『希望の空』劇団ぎょう座【第11作】(字幕入り)
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