かんちがい

かんちがい　和田昌俊

男「本当に出るんですか？」

女「うん、出ます」

男「幽霊が？」

女「はい」

男「見たんですか？」

女「見たっていうより感じた、みたいな」

男「ぼく見たことないんですよ」

女「でしょうね」

男「見てみたいな」

女「あの」

男「はい？」

女「信じてないですよね？」

男「いえいえ信じてますよ」

女「ほんとに？」

男「ええそりゃもう。婚約者ですから」

女「いやまだ何回かデートしただけですよね？」

男「結婚前提でお付き合いしてるんですから婚約者ですよね」

女「いや、婚約者ってわけじゃないです」

男「・・・」

女「・・・」

男「でもこうやって秘密を打ち明けてくれたんだからけっこうぼくたち親しいですよね」

女「だれも信じてくれないんですよ」

男「幽霊が見えるって話ですか？」

女「はい」

男「まあ信じないですよね、普通」

女「・・・」

男「あっもちろんぼくは信じてますよ、なんせ婚約者ですから」

女「いえ、婚約者じゃないですけど、ほんとにいいんですか？」

男「なにが？」

女「私で。気持ち悪いとか頭がおかしいとか思ってません？」

男「いえ全然」

女「本当に？」

男「本当に」

女「・・・」

男「で、どこにいるんです？」

女「幽霊ですか？」

男「幽霊です」

女「そこにずっといますよ」

男「どこです？」

女「ほら、そこに」

　カメラを見つめる女

男「え？」

　カメラを見つめる男

男「だれもいないですよ」

女「見えないんですか？」

男「見えないです」

女「本当に？」

男「本当に」

女「このレンタルスペースで去年のクリスマスに恋人にフラれて自殺した女の子の幽霊が見えないですか？」

男「見えないです」

女「やっぱり私たち相性が合わ」

男「ああっちょっと待ってください見えます見えます見えました」

女「幽霊が？」

男「幽霊が」

女「本当に？」

男「本当に」

女「このレンタルスペースで去年のクリスマスに恋人にフラれて自殺した女の子の幽霊が見えるんですか？」

男「見えます見えます、あの白い服を着て髪の毛がすごーく長」

女「自殺した女の子はショートカットです」

男「すごくショートカットな女の子の幽霊が見えます」

女「本当に？」

男「本当に」

女「優しい人なんですね」

男「ありがとうございます」

女「どんな私でもいいんですか？」

男「あなたがいいんです」

女「私が幽霊が見える人でも？」

男「はい」

女「私が幽霊の声が聞こえる人でも？」

男「はい」

女「私が幽霊に操られてても？」

男「はい」

女「私が幽霊の命令で生贄を捧げていても？」

男「はい」

女「私が今からあなたを襲っても？」

男「はい」

女「なんでそこまでして」

男「ぼく、あなたの気持ちがよくわかるんです」

女「えっ？」

男「興味本位で幽霊が出る心霊スポットに行ったらのりうつられちゃったんですよね」

女「どうしてそれを？」

男「幽霊なんて信じてなかったのに、呪いを解くために童貞の魂が必要なんですよね？」

女「そうなんです。もしかして童貞なんですか？」

男「童貞です」

女「その年齢で？」

男「40歳の童貞です」

女「エクセレント」

男「ではそろそろ始めましょうか？」

女「いいんですか？」

男「心の準備はできています」

女「エクセレント」

男「洗ってないけど大丈夫ですか？」

女「そのままで平気です」

男「エクセレント」

女「ではバスルームへ」

男「えっ？ベッドに行くんじゃ？」

女「えっ？血が飛び散るからバスルームのがいいかなって」

男「えっ？」

女「えっ？」

男「今からぼくのことを襲うんですよね？」

女「はい」

男「ぼくはあなたに童貞を捧げるんですよね？」

女「えっ？首を掻っ切って血を捧げてくれるんですよね？」

男「えっ？」

女「えっ？」

男「・・・」

女「・・・」

男「ちょっと用事を思い出したので帰りますね」

　立ち去ろうとする男は急いで玄関へ向かう

男「あれ？ドアが開かない」

　ため息をついて椅子から立ち上がる女

　カメラを見て微笑んで

女「すぐ終わるからちょっと待っててね」

　玄関へ向かう女の手には包丁が握られている

END