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執筆者の写真昌俊 和田

オリジナル脚本『世界の終末』

更新日:7月24日

『世界の終末』という作品について


少子化がテーマです


下品な表現がありますが、子どもを守るという行為はカッコつけてなんかいられないことを表現しています


たとえ自分の人間としての尊厳を損なうようなことがあっても、自分を犠牲にしなければ子どもを守ることはできません


世界が弱肉強食になって余裕がなくなるとどうしても自分のことを優先する人が出てきてしまいます(生活の余裕のなさから生じるいがみ合い)


子どもがいる人といない人、両者の間に溝を生んでしまうのは状況や環境のせいです


少子化が深刻な日本ではすべて自己責任で片付けられてしまい、子どもを贅沢品という認識に変えてしまいました


そのせいで社会状況が困難になればなるほど子どもがいる人といない人の間に溝が生まれて、さらに少子化が進む悪循環になってしまっています


自分のことだけを考えればいい社会は孤独を生みます


それを表現するため、登場人物の一人の最後を孤独な状況に置いています


安全かもしれないけれど、孤独という状況です


ゾンビパニックものにしたのはいまの日本社会がすでに混乱を極めるほどの少子高齢社会だということを表現するためです


どんどん溢れるゾンビは増えていく高齢者を表現しています(批判を覚悟での演出です)


現代日本はこの先、あふれて増え続ける高齢者に、独身者や少ない子どもと子育て世帯が追い詰められていく構造です(人口ピラミッドと年金の構造)


お互いに他者を思いやり、傷つけ合うのではなく、手を取り合わなければだれも助かりません


だれもが希望溢れる社会になるように願ってこの作品を作りました




『世界の終末』


第一稿


作・和田昌俊



坂田大輝(さかた だいき)

パンデミックが起きてから公民館の一室で籠城している。職場では遠藤の先輩。妻子持ちで安否が気になっている


遠藤翔太(えんどう しょうた)

パンデミックが起きてから坂田と一緒に籠城している。坂田の後輩。独身


松田美緒(まつだ みお)

ドアを叩いて助けを求める少女。






※本作において身体的接触少しだけあります(手を引く)。セリフにセクシュアルな表現若干あります。肌の露出はありません。暴力的表現はありません。喫煙・飲酒シーンはありません





シーン1(公民館の一室 昼間)


 坂田と遠藤が部屋で籠城している。坂田は食糧を確認している

坂田「残った食料はこれだけか」

 遠藤は放心状態でつぶやいている

遠藤「みんなやられたのかなあ」

 思い出すように言う遠藤

遠藤「田中さん、いい人だったのに・・・」

坂田「しっかりしろ、やらなきゃおれたちがやられてたんだよ」

 坂田が励ますが、遠藤の心には響かない

遠藤「あれは一体なんなんだ?たしかに息をしてなかった」

坂田「ああ」

遠藤「なのに、急に起き上がったと思ったら田中さんを噛み始めるなんて」

坂田「ああ」

遠藤「田中さんのあの目、絶望感に溢れたあの目が忘れられない」

坂田「ああ」

遠藤「助けてくれって言ってたのに」

坂田「もうやめろ」

遠藤「消火器であんなに殴ったのに立ち上がってくるなんて絶対普通じゃない」

坂田「もうやめろ」

遠藤「あれは、あれはまるでゾン」

坂田「もうやめろって!」

 しばらく沈黙が流れる

 沈黙を破るようにドアが叩かれる

美緒「助けて!助けてください」

 女の子の声がして思わず顔を見合わせる二人

遠藤「やめろ」

坂田「助けないと」

 立ち上がってドアを開けに行く坂田を止める遠藤

遠藤「ドアを開けたらアイツらも入ってくるかもしれない。それにもしもその子が噛まれてたらどうする?」

坂田「でも」

 逡巡する坂田

美緒「助けて!だれかいるんでしょ?声が聞こえた。ここを開けて」

坂田「もしもおれの娘が、だれかに助けを求めたとしたら・・・あの子もだれかの娘なんだよ」

 止めようとする遠藤を振り切ってドアを開けにいく坂田

坂田「早く入って!」

 ドアを開けた途端に中に入ってくる美緒

美緒「ありがとうございます」

遠藤「ケガはない?名前は?親御さんは?」

 矢継ぎ早に質問する遠藤

美緒「松田美緒です。怪我はありません。お母さんとはぐれちゃって、探すの手伝ってもらえませんか?」

遠藤「美緒ちゃんか。噛まれたりしてない?」

美緒「はい」

遠藤「一応、服を脱いでたしかめさせてもらえるかな?」

美緒「え?」

 戸惑う美緒

坂田「おまえ、なに考えてんだよ」

 憤る坂田に対して冷静な遠藤

遠藤「だってもしもこの子がウソをついてたら、ぼくらも危険な目にあうんですよ」

坂田「だからっておまえ」

坂田が鉄拳制裁しかけたときに、唐突にドアを叩く音がする

遠藤「ほーら、言ったとおりだ。やっかいなことになるんですよ」

 ドアを叩く音と同時にうめき声のような声がきこえ、明らかに普通の人じゃないとわかる一同

 次第にドアを叩く音が増える

坂田「まずいぞ、出口はあのドアしかないのに」

 困り果てる坂田

坂田「飛び降りれる高さじゃないから窓も無理だし」

 あせる坂田

 その様子を見ていた遠藤がしばらく考え込んでから決意したように言う

遠藤「ぼくが犠牲になります」

坂田「遠藤、おまえ」

遠藤「ドアを開けてぼくが突撃します。そのすきに、坂田さんは美緒ちゃんと逃げてください」

坂田「そんなことしたらアイツらに噛まれちゃうぞ、自殺行為だ」

遠藤「いいんですよ、ぼくは独身だし、子どももいないんで。坂田さん、奥さんと娘さんに会えるといいですね」

坂田「遠藤、おまえ」

遠藤「湿っぽいのはやめましょう。未来ある世代が生き残るべきなんですよ」

 そう言うと遠藤は美緒の方を向いてあやまる

遠藤「さっきはゴメンね。ここから逃がしてあげるから許して欲しい」

 うなずく美緒

美緒「ありがとうございます」

坂田「いいやつだな。おまえって」

遠藤「やめてくださいよ恥ずかしい」

坂田「イチかバチかやってみるしかないな」

 坂田があたりを見回す

坂田「ここには武器になりそうなものはなにもないぞ」

遠藤「強いて言えばこれかなあ」

 遠藤はムチや歯ブラシを手に取る

坂田「うん、お前映画の観すぎだ」

 坂田がさりげなくツッコむ

遠藤「あ、ありましたよ、武器」

坂田「どこに?」

遠藤「坂田さんのオナラ殺人級に臭いじゃないですか」

坂田「・・・なにを言い出すんだきみは」

遠藤「いやいや、覚えてます?この前の飲み会で餃子を食べた後、坂田さんがすかしっぺしたら何人も気持ち悪くなって吐いちゃって大惨事だったじゃないですか」

坂田「いや、だからあれはおれじゃないって」

遠藤「坂田さん、この子の命がかかってるんですよ、自分の名誉とこの子の命とどっちが大事なんですか?」

坂田「いや、それはまあこの子の命を救いたいけどもさ」

遠藤「今こそ、あなたの力が必要なんです」

坂田「お、おう」

遠藤「いっぱい出るようにこのコーラをあげるんで、一気飲みしてください」

坂田「いや、それはちょっと」

遠藤「この子の命がかかってるんですよ」

坂田「わかったよ」

 コーラを一気飲みする坂田

 少しバカにしたような表情の遠藤

遠藤「飲みましたね、じゃあいきますよ」

 ちょっと気持ち悪そうな坂田を尻目にドアに向かう遠藤

坂田「ちょっと待て」

 坂田が止める間もなく、いきなりドアを開ける遠藤

 遠藤はドアのかげに隠れてニヤついている

遠藤「バカだなあ。子どもなんて足手まといでしょ。生き残るならまずは自分のことだけ考えなくっちゃ」

坂田「遠藤、おまえ」

遠藤「弱い奴が死ぬのは自己責任ですよ」

 吐き捨てるように言って逃走する遠藤

 ゾンビが部屋に入ってきて坂田と美緒に近づいていく

坂田「鼻を塞いで!」

 美緒に向かって叫ぶと坂田は踏ん張る

 強烈な臭気があたりを包み込んでいく

 ゾンビの動きは少し遅くなるがそれでも止まらない

坂田「くっ、本気を出すしかないか」

 真剣な表情の坂田はさらに腰を落として踏ん張る

 強烈な爆音と臭気があたりに充満する

 ゾンビの動きが止まりピクピクする

坂田「いまのうちだ!」

 坂田は美緒の手を引いて部屋から脱出する


 

 シーン屋外の道(または建物の廊下)



美緒「ありがとうございました」

坂田「心配ないよ。おれがお母さんをきっと見つけてあげる」

美緒「うん、でも、まずは新しいパンツを見つけないとね」

 美緒はそう言うと鼻をつまんで顔をしかめる

 坂田のお尻の辺りは少しコンモリしていた





ED


トイレの個室に閉じこもっている遠藤

遠藤「ここなら安全だ」

しばらく笑顔だった遠藤の表情がだんだん暗くなる

遠藤「でも、だれもいないってのは、さびしいなあ。さびしいなあ」

トイレの壁に頭を打ちつけ始める遠藤

 遠藤の頭を打ちつける音が暗転後もしばらくなりつづける

 





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短編映画『世界の終末』劇団ぎょう座【第12作】(字幕入り)The Apocalypse/End of the World


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