三角の頂点
「きゅうに海外に転勤になったって言われてさ」
「うん」
「おれ、結婚も考えてたんだけどな」
「うん」
「転勤の話、直前まで黙ってるなんて、おれとの関係サラッと終わらせたいってことだよな」
「・・・」
「おれはうまくいってると思ってたんだけどなあ」
「うん」
「夢を叶えるには海外赴任しておくのが近道なんだってさ」
「うん」
「なあ、さっきからおれの話ちゃんときいてるか?」
「好きなんでしょ、彼女のこと」
「えっ、そりゃまあ」
「プロポーズしようかと思ってるけど、自分が彼女の重荷になりたくないってことでしょ」
「なんでわかるんだよ」
「もう何回相談に乗ってると思ってんの。全部お見通しなんだから」
「いつもわるいな」
「どうするの?」
「このまま気持ちを隠して友達として見送ることにするよ」
「フラれたって思ってるんだ?」
「まあ、こんな男はフラれて当然だよな」
「鈍感でデリカシーなくって童貞だけど、まっすぐなところに惹かれる女はいるはずだよ」
「アイツが好きなのは、贅沢させてやれる金持ちの男。女はみんなそう」
「決めつけないでよ」
「プロポーズなんかしたら、迷惑かかっちゃうから」
「プロポーズされるの待ってるかもよ」
「いや、どうせフラれるし」
「わかんないじゃん」
「わかるよ」
「もしかしたら、親友に相談してるかも」
「えっ?」
「鈍感でデリカシーなくってたぶん童貞だけど、まっすぐなところに惹かれてる男の人がいるって」
「ウソだろ」
「海外に転勤になったこと、なかなか言い出せなくて、直前になっちゃったって」
「ウソだろ」
「ウソかもね」
少しだけ悲しそうに言う女
「なんだ、ウソかよ」
「当たって砕けてきなよ」
「きっと粉々になる」
「そのときは拾ってあげる」
見つめ合う二人
「ゴメンな」
立ち去る男
ベンチに残った女は見送った後に自分の正面を向き悔しそうな様子
「なんで謝るんだよ。気づけよ、バカ」
(バカのセリフの時には暗転。タイトルと同時にセリフ流れる)
『三角の頂点』という作品について
三角関係がテーマです
自分の愛を優先するのかそれとも愛する人の幸福を追求するのか(その場合、自分は報われません)
タイトルは三人の交わらない関係性を表現しています
三点がそれぞれ離れているから三次元(三角形)を保っていますが、二点がお互いに重なると二次元(直線)になってしまいます
その直線の距離感が残されたほうの心の距離です
自分の好きな人が自分の親友とお互いに両想いだとわかったとき、それを伝えられるかどうかで、愛の深さがわかる気がします
他者を思いやる愛の溢れる世界になることを願ってこの脚本を書きました
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