『ソーダとコーラ』
第三稿
【作】A Uske(えい ゆうすけ)・和田昌俊
想田杏奈(12)そうだあんな
家庭に居場所のない小六。放任主義のシングルマザーから見放されている。友達がいない
小浦結衣(12)こうらゆい
シカトされてる小六。母親似。シングルファーザーに厳しく管理されて育てられている。友達がいない
小浦昌俊(36)こうらまさとし
結衣の父親。在宅ワークで映像関係の仕事をしているシングルファーザー。結衣を厳しく育てている。毎週水曜日は打ち合わせのため出社している。
※本作において身体的接触が少しあります(もたれかかる。頭をナデナデする。メイクをする)。セリフにセクシュアルな表現ありません。肌の露出はありません。暴力的表現ありません。喫煙・飲酒シーンはありません。一部に恫喝シーンがあります
【シーン1 小浦家・玄関】
杏奈「募金お願いしまーす」
結衣が施錠を解いて玄関を開けると強引に中に入ってくる杏奈
杏奈「外あっつ、てか開けんのおっそ」
結衣「想田さん・・・」
杏奈「小浦さんさぁ、なんで募金してくれないの?」
結衣「はい?」
杏奈「これ」
杏奈が小学生用の学生帽を差し出す
結衣「私、落としてないよ、帽子」
杏奈「募金お願いしますって言ったじゃん。これ、アタシの募金箱」
結衣「でも、なんにも入ってない・・・」
杏奈「いいから早く募金して」
結衣「そもそもなんの募金?」
杏奈「恵まれないアタシへの愛の募金」
結衣「あの、これって、募金じゃなくてカツアゲ・・・」
杏奈「やば、熱中症かも、やば・・・」
わざとらしくフラついて結衣にもたれかかる杏奈
結衣「想田さん?大丈夫?ねえ、想田さん」
【シーン2 小浦家・結衣の部屋】
杏奈が横柄な態度でベッドに寝っ転がっている
杏奈「ああ涼しいぃぃ生き返るぅぅぅ」
結衣「これ」
結衣がオドオドしながら杏奈に麦茶の入ったグラスを手渡す
ベッドから起き上がって麦茶を飲み干す杏奈
杏奈「はあ、冷えた麦茶って最高」
グラスを結衣に返す杏奈は再び寝転がる
結衣「あのぉ、想田さん」
杏奈「なに?」
結衣「親から誰もウチに上げちゃいけないって言われてるから、そろそろぉ・・・」
杏奈「帰るよ。募金してくれたらだけど」
グラスを机に置いた結衣は財布から五円玉を出す
結衣「じゃあ、少ないけど、これ・・・」
五円玉を差し出す結衣
杏奈「なめんてんの?五円玉って、アタシは神社か?ご縁の神様か?」
結衣「ゴメンね。スマホで買い物するからあんまり小銭持ってなくって・・・」
杏奈「スマホ持ってないアタシへの嫌みか?」
結衣「ゴメンゴメン。じゃあ・・・」
財布から千円札を差し出す結衣
杏奈「マジで?!」
起き上がって千円札を奪い取る杏奈
杏奈「結構いいヤツじゃん、結衣」
結衣「呼び捨て?」
結衣の頭をナデナデする杏奈
杏奈「結衣は良い子だから。ガリガリくんおごったげる」
結衣「私があげたお金なんだけど」
杏奈「今はアタシの金なんだけど」
【シーン3 小浦家・結衣の部屋】
机の上にソーダ味の袋とコーラ味の袋と食べ終えた棒が置いてある
結衣にメイクをしている杏奈
杏奈「コーラ味とかウケる。普通、ソーダ味でしょ?」
結衣「普通も何も、初めて食べたから」
杏奈「マジ?!天然記念物じゃん」
結衣「食事にうるさくて、ウチのパパ。それがイヤでママは出てっちゃった」
杏奈「そっか。ウチはパパが出てちゃったよ。ママは新しい彼氏に夢中」
結衣「口うるさいパパがいないってうらやましい」
杏奈「アタシみたいに、ほったらかしにされるよりいいじゃん」
結衣「ほったらかしのがいいよ、ウチのパパ束縛ヤバイもん」
杏奈「そうかな?親にシカトされんのキツいよ」
結衣「クラスのみんなから無視されんのも結構キツいよ」
杏奈「えっ結衣、無視されてんの?よかったぁ、そっちのクラスじゃなくて」
結衣「なんかあるとすぐにクレームつけるからウチのパパ。みんな怖がっちゃって」
杏奈「そりゃ無視されるわ」
結衣「あのさ、想田さん・・・」
杏奈「杏奈でいいよ」
結衣「私と友達になってくれる?」
杏奈「友達って、だってアタシたちは・・・」
結衣「千円募金したよね?これからもお金あげるからさ、友達になってよ」
イライラする杏奈
杏奈「千円で友達って・・・」
結衣「あっ少ないよね、もっとあげるからさ、友達になってよ」
財布から千円札を差し出す結衣
その手を払いのける杏奈
杏奈「金でアタシを買えると思うな!バカにすんなよ!」
杏奈は立ち上がるとドアに向かう
結衣は杏奈の手をつかんで引き留める
結衣「ゴメン、待ってよ、どこ行くの?」
杏奈「帰る」
玄関の開く音がする
昌俊「ただいまぁ、おい結衣!玄関鍵かかってなかったぞ!」
【シーン4 小浦家・玄関】
玄関に立っている昌俊の所に走ってくる結衣
杏奈の靴を見つめている昌俊はキツい口調で結衣にあたる
昌俊「誰の靴?」
結衣「想田さんの」
昌俊「男の子か?」
結衣「女の子だよ」
昌俊「パパがウチにいない時に人を上げちゃダメだって言ってるだろ!」
結衣「ごめんなさい。すぐ帰るから」
昌俊「だれだよ、その想田って」
結衣「女の子」
昌俊「だから誰なんだよ?学校の友達?」
結衣「違う」
昌俊「じゃあピアノ教室の友達?」
結衣「違う」
昌俊「じゃあ塾の友達か?」
結衣「違う」
昌俊「ったく、じゃあどこの友達なんだよ?!パパにちゃんと報告しろ!」
結衣は昌俊の顔を見上げて言う
結衣「友達はいない」
昌俊「いないって、じゃあ想田って一体だれなんだよ?パパにウソつくな!」
ビンタしようとする昌俊
すっ飛んで来る杏奈
杏奈「あっお邪魔してまーす」
手を下げて杏奈を見る昌俊
杏奈「想田杏奈です。結衣ちゃんの学校の友達です」
昌俊「学校の友達?でも想田って名前はクラスにいなかったけど」
杏奈「あっ隣のクラスです」
昌俊「そうなんだ、親御さんは何やってる人?」
杏奈「両親ともに公務員です」
昌俊「そう、悪いんだけど、ウチには誰も入れないことにしてるから」
杏奈「もう帰ります。お邪魔しました」
結衣を押しのけて靴を履こうとする杏奈
昌俊は入れ違いに杏奈の横を通り過ぎてリビングに去って行く
靴を履いた杏奈は結衣を振り返る
杏奈「友達ってさ、タダなんだよ」
結衣「ゴメン、バカにしたつもりじゃなかったんだ」
杏奈「だからこれ、返す」
千円札を取り出す杏奈
結衣「いや、これは募金したやつだから・・・」
杏奈「友達でしょ?アタシたち」
結衣「えっ?」
杏奈「今度は結衣がガリガリくんおごってよ」
千円札を受け取る結衣が笑顔になる
結衣「うん。また一緒に食べようね、杏奈」
杏奈「呼び捨て?ガリガリくんですら君付けなのに」
杏奈も笑顔になって玄関を開けて出て行く
杏奈「またね、結衣」
結衣「またね、杏奈」
閉まる玄関を見つめる結衣
『ソーダとコーラ』タイトルイン
【日本の子どもの数は年々減少している】
【しかし児童虐待の相談事例は年々増加している】
エンドクレジット開始
【シーン5 階段 別日】
だれもいない階段を勢いよく上がっていく杏奈の手と足
杏奈の手はガリガリくんコーラ味を持っている
【シーン6 小浦家・玄関 シーン5同日】
結衣が玄関のドアを開けると杏奈が入ってくる
杏奈「大丈夫なの?」
結衣「水曜日はいつも打ち合わせで帰ってくるの遅いから」
杏奈「良かった」
結衣「はい、これ」
結衣がガリガリくんソーダ味を差し出す
受け取る杏奈もガリガリくんコーラ味を差し出す
杏奈「この前のガリガリくん、当たってたんだ」
結衣「あれ、当たってなかったじゃん」
杏奈「ううん、当たってた。絶対当たってた」
二人は見つめ合って笑う
END
【ソーダとコーラ】という作品について
児童虐待と孤独がテーマです
子どもを放任するネグレクトや厳しすぎる管理も児童虐待です
子どもは親を選べません。相談できる相手や環境に恵まれない場合があります。そして子どもは一人で悩みを抱え込んでしまいます。また、虐待によって学校内でのイジメや差別に発展していきます
孤独に慣れてしまった子どもが、同じような境遇にいる別の人物との出会いによって救われる未来の予感を描いています
自分一人だけだと考えがちですが、一見違う家庭環境でも同じように虐待に苦しんでいる場合があることを表現しています。そのため対比させた設定を使用しています(シングルマザーとシングルファーザー、放任主義と管理主義)
お互いが違って見えても実は似たような存在であることを強調するためソーダ味とコーラ味のアイスが登場します
劇的な人生の変化を描くのではなく、ここから人生が好転していくことを暗示させて作品は終了しています
少しでも多くの孤独な人が救われることを願ってこの脚本を書きました
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