『その先の未来』という作品について
不妊がテーマです
がんばっても報われず、原因もハッキリとわからないことがあります
お互いに望んでいるのにそれが叶わない状況はとても苦しくて絶望感に包まれます
迫り来るタイムリミットと減っていく貯金と結果が出ないことへのあせりから不幸だと思い込んでしまいます
決断するタイミングは人それぞれですが、子どもを持つことだけが幸せになる手段ではありません
愛する人と共に人生を歩んでいける、それは尊いことだと思います
たとえ夢が叶わなくてもいまそこにある幸せに気づいて大事にしてほしい
幸せに気づく人が少しでも増えることを願ってこの作品を作りました
『その先の未来』
第一稿
作・和田昌俊
岩本圭吾(いわもと けいご)
マジメな仕事人間。ストレスで追い詰められている莉菜を心配している。食べ歩きとお酒が趣味。子ども好きで少年サッカークラブのコーチをしている
岩本莉菜(いわもと りな)
バリバリ働いていたが妊活のため退職した。圭吾とは食べ歩きとお酒という共通の趣味がある。妹に子どもができてあせっている。現在、食事制限をしているため外食はしない。体外受精をしたが結果が出ないことにショックを受けている
※本作において身体的接触少しだけあります(肩をよせる。手をつなぐ)。セリフにセクシュアルな表現若干あります。肌の露出はありません。暴力的表現はありません。喫煙・飲酒シーンはありません
シーン1【昼間の屋内】自宅
莉菜が画面に入ってきて座りこむ
圭吾も莉菜の後からやってきて座るが落ち着かない様子
莉菜は黙っている
険悪なムードに耐えかねて圭吾が言う
圭吾「黒豆茶でも淹れようか?」
莉菜「いらない」
圭吾「タンポポ茶にする?」
莉菜「いらない」
圭吾「ルイボスティーもあるけど」
莉菜「いらないってば」
しばらく無言で座る二人
圭吾「残念だったね」
放心状態の莉菜
圭吾「しばらく休んでさ、またがんばろうよ」
莉菜「もう貯金ないじゃん」
圭吾「親に相談してみるよ。あとは同僚にもたのんで・・・」
莉菜「それでまたダメだったらどうするの?」
莉菜はイライラしている
圭吾「暗く考えちゃダメだよ。ストレスは良くないって先生も言ってたじゃん」
莉菜「ストレスがよくないって・・・この状況がすでにストレスなのにどうすればいいの?」
圭吾「うん」
力なく言う圭吾
莉菜「4AAだったのに」
圭吾「うん」
莉菜「あんなにがんばったのに」
圭吾「うん」
莉菜「もうこれ以上どうすればいいのかわかんない」
圭吾「うん」
しばらく途方にくれる二人
莉菜がポツリと言う
莉菜「ね、別の人と結婚したら子供できるかもよ」
圭吾「何言ってんだよ」
莉菜「だからさ、わたしじゃなくてだれかほかの人とだったらきっと-」
圭吾「やめろって」
圭吾は莉菜の方を向いて言う
圭吾「今まで二人で幸せだったじゃん。おれはこのままでもいいと思ってるよ」
圭吾の顔をしばらく見つめて莉菜が言う
莉菜「わたしたち、よくがんばったよね」
お腹に手を置きながら視線を落とす莉菜
莉菜「なんでダメなんだろう」
その手を取りながら圭吾が言う
圭吾「きっと、なにか他にやるべきことがあるんだよ」
莉菜「やるべきこと?」
圭吾「うん、一緒に探そう」
しばらく考えるように圭吾の顔を見つめる莉菜が決断したようにうなずく
莉菜「ゴメンね。父親にしてあげられなくて」
圭吾「あやまることじゃないでしょ」
莉菜の肩を抱き寄せる圭吾
圭吾「ゴメンね。母親にしてあげられなくて」
圭吾の肩に頭を倒す莉菜
莉菜「あやまることじゃないでしょ」
二人はお互いに無言で前を見つめる
思い出したように圭吾が言う
圭吾「そうだ、もう食事制限とか気にしなくていいんだから、今日はパーっとなにか美味しいものを食べよう」
莉菜「あれが食べたい」
圭吾の顔を見つめて莉菜が言う
圭吾「あれ?」
莉菜を見つめ返して圭吾がきく
表情を見てすぐに気がつく圭吾
圭吾「ああ、あれね」
餃子のネオンが映る
END
エンディング後
圭吾と莉菜が二人で並んで歩いていると前方から手をつないで歩く親子連れとすれ違う
振り返る莉菜に声をかける圭吾
圭吾「大丈夫?」
少しだけ親子を見送った後、莉菜は圭吾の顔を見つめて笑う
莉菜「うん、大丈夫」
莉菜は圭吾の手を握って歩き出す
二人の手はギュッと固く握られている
男性に原因がある不妊の確率は約50%
不妊の検査や治療の経験がある夫婦は約25%
日本の女性の生涯無子率は27%
これは世界で最も高い数字
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