20年後の再会
「久しぶりだね」
「来てくれてありがとう。約束守ってくれたんだね」
「約束破ったことなんてないでしょ」
「正直、来ないかと思ってた。だって約束したの20年前だし」
「くるよ。なにがあっても必ず」
「20年後に再会して、お互い独身だったら結婚するって約束、覚えててくれたんだ」
「覚えてるよ。だって自分の誕生日だもん」
「おれの誕生日でもあるけど」
「同じ日に生まれてるって奇跡だよね」
「どれくらいの確率だろう」
「ざっと365分の1じゃない?」
「それって何%?」
「約2.7%」
「全然ピンとこないな」
「運命的な確率ってこと」
「そっか運命なのか」
少し悲しそうに
「こうなることも運命だったのかな」
「お互い独身ってこと?」
「そう独身」
「じゃあおれと結婚する?」
「そういう感じ、昔とちっとも変わんないなあ」
「そっちも昔と変わんないじゃん」
「そうかなあ。ちょっと大人っぽくなったでしょ?」
「うん。イイ女になった」
「イイ男になった」
「好きな人ができたんだろ?」
「なんでわかるの?」
「お見通しだよ、それくらい」
「結婚するつもり」
「そっか」
「うん、今日ちゃんと返事しようかなって思って」
「おめでとう」
「ありがとう」
しばらくの沈黙のあと彼女が切り出す
「じゃあ、私先に行くね」
「うん」
「彼に会ったらよろしく伝えて」
「なんでおれが?」
「いままで独身だったバツ」
「なんだそれ?」
「20年間も待たせたんだから、それくらいいいでしょ」
「わかったよ」
立ち去る彼女
すれ違いざまに男がやってくる
おそるおそるたずねる男
「もしかして和田さん、ですか?」
「はい。あのあなたは」
言いかけた途端に
「あっどうも那奈の婚約者・・・になりそこねた男です」
「えっ?」
「いやじつは今日、ここでプロポーズの返事をきく予定だったんです」
「プロポーズ?」
「彼女の遺品整理をしていたら、カレンダーに場所と名前だけ書いてあって・・・」
「そうだったんですか」
「彼女、亡くなったんですよ。事故で」
「いつですか?」
「ちょうど7週間前です」
「7週間前?」
「未練がましいですよね。ぼくフラれたのに、どうしても相手のことが気になって、きちゃいました」
恥ずかしそうに笑う
「彼女とはいつからお知り合いなんですか?」
「いや、ただの幼馴染です」
「幼馴染かあ」
「中学生の時に転校しちゃったんで、それっきり会ってないんですけどね」
「えっ?じゃあ20年以上会ってないってことですか?」
「そうです」
「ずっと好きだったんですね、彼女」
悲しそうにうなだれる
「フラれて当然だ」
「いえ、ぼくがフラれたんですよ」
「えっ?」
「彼女、あなたと結婚するつもりでした」
悲しそうにうなだれる
「ぼくと会った後にあなたにプロポーズの返事をする予定だったみたいです」
「そんな・・・どうしてわかるんですか?」
「さっき会ったんですよ」
「えっ?」
「20年前に約束してたんです。ここで再会しようって。その時独身だったらお互いに結婚しようって」
「でも彼女は亡くなってるんですよ」
「信じないですよね、こんな話。彼女は約束を守ってくれたんです」
「約束は必ず守る人でした」
「だからぼくに返事を頼んだんですよ、あなたに自分の気持ちを代わりに伝えてほしかったのかなって」
「直接言えばいいのに」
「それだとあなたが彼女のこと忘れられなくなっちゃうじゃないですか」
彼氏の顔を見て言う
「信じないでしょ?こんな話」
「今は・・・信じます」
決意したように言う
「でも、やっぱり信じられない」(彼女の意志を尊重して、彼女の死を引きずらずに自分の人生を前向きに生きていこうという気持ちの表明)
「それでいいんですよ」
しばらくの沈黙のあと立ち去る彼氏
「イヤな役目を押し付けられちゃいましたね。どうもありがとうございました」
「お幸せに」
多くの宗教において死後の魂は存在すると考えられている
仏教によると死後の魂は49日間この世とあの世をさまよう
「誕生日も一緒で、死んだ日も一緒だなんて、ほんと運命的だよな・・・おれもそろそろ行くか」
セリフのあと下半身だけのカットに切り替わると下半身は消えかかっている
またさっきのセリフのカットに戻ると男の姿は消えている
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