『性の同意』という作品について 和田昌俊
性的同意とコミュニケーションについてがテーマです
日本でもようやく性的同意についての重要性が認識されて、法改正が行われました
ですが日本人はもともと恥ずかしがり屋で真面目ですのでうまく相手と性的同意をとることができずに戸惑っているように思います
ちゃんとしようと考えれば考えるほどなにか形を残そうとしてしまい、おかしな方向にいきがちです
性的同意についてはお互いがする必要があるため、この作品ではあえて女性が証拠を残そうとしています(女性に同意を得ればいいわけではなく、男性にも同意を得る必要があることを強調するためです)
性的同意というセクシュアルな題材を扱っているのでこの作品ではコメディにすることでセクシー感を控えめにしています
性的同意について、書類や録音などの証拠を残すことが大事なのではなく、お互いの気持ちを確認しあうことが大切だというメッセージを込めました(とかく法律の観点からどのような証拠を残せばいいか考えがちですが、本来の性的同意とは証拠を残すことが目的ではないはずです)
性的同意において大切なのは相手を思いやる気持ちです
日本人は目的と手段を混同しがちですが、不足しているのはコミュニケーションだと思います
事前にお互いの気持ちを伝え合うことを恥ずかしがらないことが重要です 何かを残すとすればそれは二人の気持ちだと思います
そして気持ちはその時によって変わります
ですから、その都度気持ちを確認することが大切です
なお、最後のカメラ目線でウィンクして暗転するのは性の同意の確実な証拠を残すなら最初からビデオ撮影しておかなきゃダメだよね、という皮肉になっています
性的同意について恥ずかしがらずに、もっと柔軟に考えることができる人が増えることを願ってこの脚本をかきました
『性の同意』
第ニ稿
作・花緒/和田昌俊
山崎真人(ヤマザキマコト)
アヤカの恋人。初めてのいいムードに緊張しつつも喜んでいる。繊細でデリケートなところがある
森田彩華(モリタアヤカ)
マコトの恋人。何事も失敗したくない性格でその都度記録を残そうとする。甘えるのが苦手
※本作において身体的接触があります(押し倒す。イチャつく。ほっぺたに軽いキス)。セリフにセクシュアルな表現が若干あります。肌の露出はありません。暴力的表現はありません。喫煙・飲酒シーンはありません
ワンシーンのみ
【シーン1 屋内 昼 マコトの部屋】
マコトとアヤカがベッド(またはソファ)に座ってイチャついている
マコト「なあ、いいだろ?」
アヤカ「したいの?」
マコト「アヤカと一つになりたいんだ」
アヤカが恥ずかしそうにしながらうなずく
マコトがアヤカの服を脱がそうと手をかける
アヤカ「待って」
マコト「えっ?」
アヤカ「始める前にこれにサインして」
アヤカが紙とペンをマコトに見せる
マコト「なにこれ?」
アヤカ「性行為同意書。私のこと本当に愛してるならサインできるでしょ?」
マコト「なにも書類に残さなくても」
アヤカ「お互いが性行為することに同意した証拠を残すべきでしょ」
マコト「いや、でも」
アヤカ「私ってただの遊び相手?」
マコト「ちがうよ」
アヤカ「じゃあ同意書にサインして」
マコト「わかったよ」
マコトはペンを受け取りめんどくさそうにサインする
マコト「ほら、これでいいでしょ?」
同意書をアヤカに見せると服を脱がそうと手をかけるマコト
書類をチェックするアヤカ
アヤカ「待って」
マコト「なんだよ」
アヤカ「日付を書いてない」
マコト「日付なんてどうだっていいじゃん」
アヤカ「ダメ。二人が初めて性行為する日なんだから大事な日でしょ」
マコト「わかったよ」
マコトはめんどくさそうに書類に日付を記入する
書類をアヤカに渡して服を脱がそうとするマコト
書類をチェックするアヤカ
アヤカ「待って」
マコト「今度はなに?」
アヤカ「子どもができた場合に希望する名前の欄が空欄じゃん」
マコト「子どもができてからでいいじゃん」
アヤカ「ダメ。それじゃ子どもがかわいそうでしょ。ちゃんと名前を決めてからじゃないと」
マコト「ええ〜そこまでしなくても」
アヤカ「万が一に備えておきたいの。私のこと本気なんでしょ?」
マコト「そうだけど、きゅうに言われてもな」
アヤカ「じゃあしない」
マコト「わかったよ」
マコトは適当に書類に名前を書く
マコト「ええっと、男だったら昌俊で女だったら◯◯(演じている女優さんの名前)。これでいいだろ?」
書類をアヤカに渡して服を脱がそうとするマコト
書類をチェックするアヤカ
アヤカ「待って」
マコト「今度はなんだよ」
アヤカ「経験の有無のところが空欄」
マコト「いや、それ重要か?」
アヤカ「病気とか心配だし、私で何人目なのかちゃんと書いてよ」
マコト「・・・」
アヤカ「聞こえないんだけど?」
マコト「・・・」
アヤカ「言っとくけど、嘘ついたらあとで慰謝料請求するからね」
慰謝料の欄を指差しながら嫌味っぽく言うアヤカ
イヤイヤ書類に記入するマコト
アヤカ「ゼロ?えっゼロ?初めてってこと?」
イヤイヤうなずくマコト
アヤカ「そうだったんだ。じゃあこういう書類も初めてだったんだ」
ちょっと自信をなくしたマコトに優しく近づくアヤカ
気を取り直したようにアヤカの服を脱がそうと手をのばすマコト
アヤカ「待って」
マコト「ええ〜また〜?」
アヤカ「書類だけじゃ心配だから録音も残しておきたい」
アヤカはそう言ってスマホの録音アプリを起動する
マコト「それはさすがにやりすぎでしょ」
アヤカ「録音しておくとあとで役に立つこともあるんだよ」
マコト「いやあ、さすがに」
アヤカ「これで最後だから。ちゃんと同意したって言葉に出して言って欲しいの」
スマホを突きつけるアヤカ
マコト「わかったよ」
アヤカのスマホに向かって宣言するマコト
マコト「私、山崎真人は森田彩華と性行為することに同意しました」
アヤカは満足そうにスマホを操作して保存する
マコトはなんだかうかない様子
アヤカ「どうしたの?やらないの?」
マコト「なんか、もういいや」
アヤカ「もういいってどういうこと?」
マコト「いや、なんかさ、おれたち感覚が合わないと思う」
アヤカ「お互いの意思確認は大事でしょ、あとでモメないためにも」
マコト「別れよう」
アヤカ「えっ?」
マコト「別れよう、もう無理だ。ついていけない」
アヤカ「なんでそうなるの?私悪いことしてないじゃん」
マコト「そうだけど、これが正しいとも思えない」
しばらくの沈黙
アヤカ「私たちもう終わりなの?」
マコト「うん」
アヤカ「そっか。じゃあ慰謝料請求する」
マコト「なに言ってんだよ」
アヤカ「これ覚えてる?」
アヤカがカバンから書類を取り出す
アヤカ「交際同意書。別れる時は相手に慰謝料を請求する」
マコト「そんなの覚えてないよ」
アヤカがスマホの録音アプリを操作すると楽しそうなマコトとアヤカの声が流れる
マコト「(録音再生)私、山崎真人は森田彩華と交際することに同意します」
アヤカ「(録音再生)私、森田彩華は山崎真人と交際することに同意します」
マコト「(録音再生)うれしいな。いまおれめちゃくちゃ幸せだ」
アヤカ「(録音再生)私もめちゃくちゃ幸せ」
マコト「(録音再生)ずっと大切にするよ。おれアヤカのしたいこと全部叶えてあげたい」
アヤカ「(録音再生)ありがとう。私もマコトのしたいこと、一緒にやっていきたい」
録音をきいていたマコトとアヤカは恥ずかしくなりながらも当初の気持ちを思い出していく
マコト「(録音再生)これから先なにがあってもずっと一緒だから」
アヤカ「(録音再生)私もマコトのそばを離れない」
マコト「(録音再生)どんなことがあっても別れません」
アヤカ「(録音再生)私も、どんなことがあっても別れません」
マコト「(録音再生)愛してる」
アヤカ「(録音再生)愛してる」
マコト&アヤカ「(録音再生)せーのっずーっと一緒」
録音が終わるとマコトがアヤカに言う
マコト「慰謝料なんて払わないよ。おれたちまだ付き合ってるんだろ」
アヤカ「そうだね。破局同意書にはまだサインしてないしね」
マコトがアヤカを見つめる
アヤカ「する?」
マコト「うん」
マコトがアヤカの服に手をかける
アヤカ「待って」
ウンザリしながらマコトが言う
マコト「もう同意書にはサインしただろ?」
アヤカ「私のサインがまだだよ」
マコト「ああそっか」
マコトが書類を渡すとアヤカはそれをヒラリと捨てる
戸惑うマコトの頬にキスをするアヤカ
アヤカ「これがサイン」
そう言って笑うアヤカを笑顔のマコトが押し倒す
アヤカ「待って。部屋を暗くして」
マコトがカメラ目線になる
ウィンクすると部屋の照明が消えて暗転する
【無理やり性交された経験がある女性は6.9%】
【同意とはお互いの気持ちをしっかり確認しあうこと】
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